研究課題
【目的】アルコール性肝障害(ALD)は、エタノール(EtOH)自体による肝毒性のみではなく、免疫異常が発症要因となっている。NKT細胞はCD1dを認識しIFNやIL-4を分泌する免疫細胞であるが、ALDの病態形成への関与も推定されている。一方、Protein S(PS)は肝で産生されるビタミンK依存性蛋白であるが、アポトーシス抑制作用が注目されている。本研究では、PSが急性ALDにおいてアポトーシス抑制を介して肝保護的に働くという作業仮説に基づき臨床的・基礎的研究を施行した。【方法】臨床検討:アルコール性肝炎、健常者を対象に、肝生検、肝切除検体を用いたPS、CD1dの組織染色、PCRによる発現量評価、血漿を用いたPS濃度測定を行った。基礎検討:ヒトPS過剰発現(TG)マウスにEtOHを腹腔内投与する急性ALDモデル、同マウスの単核細胞MNCsを用いたin vitroの検討を施行した。【成績】臨床検討:肝炎で血中AST、GTP、PSレベル、PSおよびCD1dの陽性肝細胞は有意な増加を示し、VA24JAQ(NKT細胞マーカー)、炎症性サイトカイン、Fas、FasL、caspase 3も強発現しており、アルコール性肝炎ではPS産生増加、NKT細胞活性化、肝細胞のアポトーシス亢進が示唆された。基礎検討:PS-TGマウスへのEtOH投与によりALT、IFN、TNF-αの上昇、肝脂肪化が観察された。in vitroの検討で、肝障害にはPSを介したNKT細胞のアポトーシス抑制が関与していた。次に、NKT細胞のPS受容体がMerであることを証明、Mer抗体によりNKT細胞のアポトーシス抑制が生じないこと、PSがAkt経路を活性化させること、EtOH自体による肝細胞のCD1d発現亢進が肝障害へ関与することを確認した。【考案】急性ALDでは、PSの産生亢進、EtOHによる肝細胞のCD1d発現亢進、過剰なPSによるNKT細胞のアポトーシス抑制が相互に作用し病態を形成している。慢性期におけるPSの関与が課題に残るが、PSの制御がALDの治療ターゲットとなり得る。
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J Thromb Haemost.
巻: 13(1) ページ: 142-154
10.1111/jth.12789.