研究課題
基盤研究(C)
ウイルス性肝炎や非アルコール性脂肪肝炎など慢性肝炎からの肝発癌は非常に高率である。一方、これら各種慢性肝炎には共通して数多くの肝細胞アポトーシスが認められる。しかし、肝細胞アポトーシスが肝発癌に与える影響は不明であった。申請者はアポトーシス抑制Bcl-2関連蛋白質であるBcl-xLあるいはMcl-1の肝細胞特異的なノックアウトが持続的な肝細胞アポトーシスを起こすことを報告している。今回これらのマウスではTNF-αの上昇や酸化ストレスの蓄積を伴って、高率に1年以上で肝発癌が起こることを解明した。これらの肝腫瘍はAFPやグリピカン3の上昇を認め、組織学的にはヒトの高分化肝細胞癌に酷似していた。また、ヒト肝細胞癌でもしばしば認められるように、ERKやJNK経路の活性化も認めた。次にMcl-1ノックアウトマウスからアポトーシス促進蛋白質であるBakをさらに欠損させることで、Mcl-1ノックアウトマウスで認めていた持続的な肝細胞アポトーシスを抑制した。その結果、TNF-αの上昇や酸化ストレスの蓄積も抑制され、1年での肝発癌率も有意に抑制された。以上より、アポトーシスの持続はTNF-αや酸化ストレスを上昇させ、肝発癌を誘導することを明らかにした。本研究結果は、慢性肝疾患において肝細胞のアポトーシスを抑制すること、すなわちALTを正常化させることは、肝発癌予防において非常に重要であることを証明した臨床的に非常に意義が大きい成果である。
1: 当初の計画以上に進展している
平成24年度では肝細胞アポトーシス持続マウスモデルを用いて、アポトーシスの持続と肝発癌に明確な因果関係があることを証明することができた。また、肝細胞アポトーシスの持続は、TFN-αの上昇や酸化ストレスの蓄積を伴うことも明らかにできた。これらの結果は、アポトーシスの持続からの肝発癌を解析するモデルマウスが確立できたことになると同時に、TFN-αの上昇や酸化ストレスの蓄積などが肝発癌にどのように関わるか解析することで、肝発癌抑制治療の新規治療標的を見出すことが可能となったと考えている。以上の理由で本申請課題は期待以上に進展していると考えている。
平成24年度の結果をもとに、肝細胞アポトーシス持続マウスモデルを用いてTNF-αの上昇や酸化ストレスの蓄積が、肝発癌にどのような影響を与えるか検討する。具体的にはTNF-αのノックアウトマウスとの交配や、抗酸化剤の内服などにより、Mcl-1ノックアウトマウスで認められる肝発癌が変化するか検討する。また、臨床検体を用いて、TNF-αの上昇や酸化ストレスの蓄積と肝発癌の関連を検討する。さらに、24年度の研究成果では、アポトーシスの抑制は肝発癌を抑制することを明らかにしたが、アポトーシス機構は癌化した細胞の排除にも重要であると考えられている。そのため過度の抑制が発癌を促進しないか、アポトーシスを強力に抑制させたBak/Baxダブルノックアウトマウスなどを用いて解析する。
上記の研究を遂行するに当たり、動物実験関連費用、細胞培養実験費用、分子生物学的解析に必要な消耗品費に使用する予定である。
すべて 2013 2012
すべて 雑誌論文 (2件) (うち査読あり 1件) 学会発表 (6件)
J Hepatol.
巻: 57 ページ: 92-100
10.1016/j.jhep.2012.01.027.
消化器内科
巻: 54 ページ: 734-738