研究課題
本研究は、C型肝炎ウイルス(HCV)感染肝細胞癌および低酸素状態における肝癌細胞の細胞死と先天免疫に対する免疫修飾を評価する事を研究目的としている。初年度は、HCV感染系の確立と、HCV感染肝癌細胞の抗がん剤耐性の評価を行い、HCV感染肝癌細胞はEpirubicinや分子標的治療薬であるSorafenibに治療抵抗性を示し、その機序として感染肝癌細胞のアポトーシスの抑制、薬剤排出トランスポーターの発現上昇の関与を確認した。今年度は、まず低酸素あるいはHCV感染による肝癌細胞上のNK活性化分子であるMICA分子の発現の変化を評価した。低酸素下での肝癌細胞の培養ではあるいはHCV感染肝癌細胞上のNK活性化分子MICAの発現を、Flow cytometry及びリアルタイムPCRで評価した。低酸素あるいはHCV感染ではMICA分子の発現の変化は認めなかった。次に癌幹細胞は抗癌剤抵抗性を示すことが報告されているため、HCV感染肝細胞の肝癌幹細胞マーカーの変化を評価した。HCV感染により肝癌細胞上のCD13やCD133といった肝癌幹細胞マーカーの発現は上昇した。インターフェロンによるHCVの除去により、抗癌剤抵抗性は有意に改善しかつCD13及びCD133の発現も有意に低下した。さらにHCV感染と細胞周期の影響を検討した。HCV感染細胞の細胞周期関連タンパク質を解析すると、G0/G1で静止している細胞頻度が有意に増加しており、HCV感染により、細胞周期のG1→S期への移行が阻害されることがEpirubicinの感受性を低下させる一因と考えられた。本研究結果は、肝癌においてHCVの感染が、抗がん剤抵抗性の一因となり、HCV感染による細胞周期への修飾や肝癌幹細胞因子の誘導の関与を示唆する結果であった。
2: おおむね順調に進展している
初年度は、HCV感染系の確立と、HCV感染肝癌細胞の抵抗性を示した。さらにその機序として感染肝癌細胞のアポトーシスの抑制、薬剤排出トランスポーターの発現上昇の関与を示した。今年度は、HCV感染による抗癌剤抵抗性の新たな機序として、HCV感染による肝癌幹細胞因子の誘導あるいは細胞周期関連タンパク質に対する修飾による抗癌剤抵抗性のメカニズムが示唆された。一方で低酸素状態あるいはHCV感染による肝癌細胞上のMICA分子への免疫修飾は起こらないことが明らかとなった。最終年度は、HCV感染によっておこる各因子の詳細なメカニズム解析と、新たな治療戦略の標的を探索する予定である。今年度はその基盤となる研究結果が得られたと考えられる。
最終年度の本年は、C型肝炎ウイルス感染肝癌細胞の治療抵抗性獲得における詳細なメカニズムの解析として、細胞周期関連タンパク質に対するHCV由来タンパクによる、細胞内修飾や、肝癌幹細胞因子の増強の分子機構を明らかにする予定である。また細胞周期を修飾する阻害剤の併用による抗腫瘍効果の増強を検討する予定である。また低酸素のみではMICA発現修飾は誘導されなかったが、本年度は、TACE治療のおける抗癌剤の治療効果を評価する目的で、低酸素培養下で、HCV感染肝癌細胞に対する免疫修飾や抗癌剤抵抗性も解析する予定である。以上の研究成果を基盤に、最終的にHCV感染肝癌細胞の新たな治療戦略の構築を目指す予定である。
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