研究課題
肝における線維化進展に重要な役割を果たしている肝星細胞(HSC)は、TGF-βを中心とした様々な液性因子間のクロストークによるシグナル制御を受けている。我々はこれまで、“肝再生因子”としてのHeparin-binding EGF-like growth factor(HB-EGF)に着目してきた。今年度は、HB-EGF の“肝線維化制御因子”としての可能性について、遺伝子欠損マウス及びマウスHSC培養系を用いて検討を行った。【方法】1)IFN誘導性Mx1-Cre遺伝子を有するHB-EGF flox;Mx1-creマウスにIFN誘導体(pIpC)を投与しKOマウス (以下KO)を作製、対照としてpIpC投与したHB-EGF floxマウス (以下WT)を用いた。WT及びKOに胆管結紮術(BDL)を行い、術後10日目の肝組織像及び肝内遺伝子発現を検討した。2)HSC活性化に対するHB-EGFの影響についてcollagen1遺伝子発現を指標に検討した。また、TGF-β応答性9xCAGA Lucを導入したHSCを 作製し、TGF-β依存性の転写活性に対するHB-EGFの影響を検討した。3)TGF-β シグナル特異的な転写抑制因子であるTGIFのHSC核内発現に対するHB-EGFの影響について検討した。【結果】1)KOではWTに比しBDLに よる肝線維化領域が約1.4倍に増加し(p<0.05)、collagen1、TIMP-1の 肝内遺伝子発現が有意に増加した(p<0.05)。 また、F4/80、CD68の 肝内遺伝子発現はKOで有意に増加した(p<0.05)、TNFα、IL-6等の炎症性 サイトカインの肝内遺伝子発現には差を認めなかった。(2)HSCにおいて、HB-EGFの 添加はcollagen1の遺伝子発現を約50%抑制し(p<0.05)、TGFβ依存性転 写活性を約70%抑制した(p<0.001)。3)HB-EGFはHSCにおいてTGIFの核内 発現を増加させた。【結語】HB-EGFは、肝線維化に対して抑制的に機能し、その一つの分子機序として肝星細胞におけるTGF-βシグナルに対する関与が示唆された。
2: おおむね順調に進展している
動物実験に加え、肝星細胞を用いた細胞系における実験でもHB-EGFの肝線維化に対する抑制作用を明らかにできた。本年度は、昨年の学会報告に加え、同実験データを論文として公表することができた (Biochem Biophys Res Commun. 2013 Jul 26;437(2):185-91.)。
初年度の動物実験の結果ならびに2年目の細胞系の実験結果を踏まえて、最終年度は、in vivoの系でHB-EGFを用いた治療的効果の可能性をin vivo, in vitroの系で評価していきたいと考える。
すべて 2013
すべて 雑誌論文 (3件) (うち査読あり 3件) 学会発表 (3件)
Biochem Biophys Res Commun
巻: 437(2) ページ: 185-191
10.1016/j.bbrc.2013.05.097. Epub 2013 Jun 4.
Proteomics Clin Appl
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10.1002/prca.201200137.