研究課題
C型肝炎ウイルス(HCV)は慢性肝炎、肝硬変、肝細胞癌等を引き起こすのみならず、2型糖尿病や脂肪肝と密接な関連があることが臨床的に知られている。我々は、HCV感染が糖新生制御因子である転写因子FoxO1のリン酸化を抑制し、活性化状態を持続させること、及び活性化されたFoxO1により、糖新生律速酵素遺伝子群の転写が促進され、肝細胞の糖新生が亢進することを明らかにした。昨年度は、HCV感染により、ホスファターゼであるMAPK phosphatase-5 (MKP5)ではなく、MAPK phosphatase-3 (MKP3)のmRNA及びタンパク質発現が亢進することを見出した。今年度は、HCV感染によるMPK3 発現量の上昇は、FoxO1のリン酸化低下にどのような影響を及ぼすかについて検討し、以下の結果を得た。(1) MKP3単独発現により、FoxO1のSer319リン酸化の程度が低下する。(2) 単独発現したMKP3は内在性FoxO1と結合する。(3) MKP3は核と細胞質の両方に局在しているが、HCVレプリコン細胞あるいはHCV感染細胞に発現させたMKP3は、核から排除され、細胞質に局在する。以上の結果から、HCV感染により、MKP3のmRNA及びタンパク質発現が亢進し、MKP3の細胞質への移行が促進されること、さらに、MKP3が細胞質におけるFoxO1との相互作用により、FoxO1の脱リン酸化反応が促進されることが示唆された。その結果、FoxO1核内蓄積(FoxO1転写活性の亢進)が惹起され、糖新生律速酵素遺伝子群の転写が促進され、肝細胞の糖新生が亢進すると考えられた。これらの成果はHCV感染による糖代謝異常誘導の分子機序の解明に貢献するものである。
2: おおむね順調に進展している
これまでの研究でHCV感染がMAPK phosphatase-3 (MKP3)のmRNA及びタンパク質発現を促進すること及び細胞質に限局することを介してFoxO1の脱リン酸化を惹起して糖新生を誘導する可能性が明らかになった。これらの成果は当初の計画通りであり、評価できると思われる。
HCV感染によるFoxO1リン酸化抑制の制御機序におけるMKP3の機能をさらに解明するため、以下の解析を進める。1. HCV感染細胞にMKP3のsiRNAを導入し、MKP3発現量をブロックすることにより、HCV感染細胞におけるFoxO1のリン酸化状態と細胞内局在並びにグルコース産生量の変化について検討する。2. 免疫沈降法にてHCV感染細胞内のMKP3を精製し、pNPP Phosphatase Assayにて感染細胞におけるMKP3のホスファターゼ活性を測定する。3. MKP3発現プラスミドをHuh7.5細胞に導入し、MKP3過剰発現により、細胞におけるFoxO1のリン酸化状態と細胞内局在、糖新生律速酵素遺伝子群のmRNA発現量及びグルコース産生量の変化について解析する。
成果発表のための国内旅費を計上していたが、公務の都合により、参加できなかったため。本年は、最終年度であるので、消耗品の他に、国内および海外での成果発表のための旅費や論文投稿料などの経費を予定している。
すべて 2014 2013 その他
すべて 雑誌論文 (14件) (うち査読あり 14件) 学会発表 (11件) (うち招待講演 1件) 備考 (1件) 産業財産権 (3件) (うち外国 2件)
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