研究課題
メタボリック症候群の病態には脂肪組織における慢性炎症が関与し、内臓脂肪組織におけるアディポカインの産生・分泌の異常が重要な役割を果たしている。我々は、B細胞活性化因子(BAFF)が脂肪細胞から分泌され、インスリン抵抗性誘導に関与するアディポカインであることを同定した。また、昨年度までに脂肪細胞でのBAFF発現に酸化ストレスが関与していることを示した。本年度はBAFF受容体ノックアウトマウス(BAFF-R KOマウス)を用いてインスリン抵抗性および肝脂肪化への影響を解析した。高脂肪食で8-12週間飼育するとBAFF-R KOマウスではコントロールマウス(C57BL/6マウス)に比べて、B細胞数、血清IgG値が低く、内臓脂肪組織でのF4/80, CD11bなどのマクロファージマーカーの発現が低下していた。また、糖負荷試験による耐糖能、インスリン負荷によるインスリン感受性が改善していた。一方、BAFF-R KOマウスでは血清ALT値の増加がみられた。肝臓においては炎症には差がなかったが、脂肪沈着が増悪し、肝内中性脂肪量も増加した。その機序として肝臓における脂肪合成に関与するFAS, ACCの発現増強がみられた。脂肪取り込みやベータ酸化、VLDL排出や炎症に関与する遺伝子は両群で差がなかった。以上から、肥満において、BAFFは内臓脂肪組織と肝臓では異なった役割を担っていることが示唆された。
3: やや遅れている
マウスを用いた解析はおおむね順調に進行しているが、遺伝子解析の一部が遅れている。臨床検体の収集は当初の計画通り進んでいる。
肝細胞におけるBAFFの役割をin vitroで詳細に解析する予定である。また、BAFF-R KOマウスでは長期間高脂肪食で飼育したマウスの解析も行う予定である。臨床例においても血清や脂肪組織の集積は順調に行われており、バイオマーカーとしての有用性を明らかにしていく予定としている。
本年度は計画が順調に進行したが、予定していた肝臓における遺伝子発現の網羅的解析が間に合わずに来年度に持ち越しになった。来年度はさらに多くのマウスを用いた実験を予定している。また、肝臓における遺伝子発現の網羅的解析を行う予定であり、予定額以上の費用を要する見込みである。
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