研究課題
基盤研究(C)
エピゲノム変化をきたすヒストンアセチル化酵素阻害薬(HDAC inhibitor)に焦点を絞り、ウイルス増殖に対する作用とがん細胞増殖に対する作用を検討し、そのエピゲノム調節機構を解明することを目的とした。ウイルス増殖の検討は、C型肝炎ウイルス(HCV)ゲノム(RNA)を含みRNA増幅が恒常的に行われるレプリコン細胞株OR6を用いた。HDAC inhibitorとしてスベロイルアニリドヒドロキサム酸(SAHA)を用い、OR6細胞への添加培養による変化を検討した。HCV RNAの増幅はSAHA添加により有意に減少した。細胞増殖との関連については、1μM以下の濃度では、細胞増殖に影響せずにRNA増幅のみが抑制された。すなわちHADC inhibitorはHCV RNA増幅を抑制することが明らかとなった。近年、HCV RNAの増幅は肝臓特異的に発現するmicroRNAであるmiR-122の発現と正の相関があることが報告され、miR-122がHCV RNAの翻訳開始部位であるIRESに直接作用することがわかっている。そのため、SAHA添加によるmiR-122発現の変化を検討したが、miR-122の関与は無いことが明らかになった。これらの作用はSAHA以外のHDAC inhibitorであるトリコマイシンAでも同様に認められた。SAHA添加による細胞内mRNA発現変化を網羅的に検討し、osteopontin (OPN)(7.43倍発現上昇)とApolipoprotein A (Apo-A1)(0.25倍発現低下)に注目した。これらの発現はSAHAによりそれぞれ8.6倍、0.39倍に変化しており、それぞれのプロモーター領域のアセチル化が免疫沈降法(ChIP assay)により確認された。OR6以外の肝がん細胞に対してのSAHAは増殖抑制効果を発揮し、アポトーシスの亢進が認められた。
2: おおむね順調に進展している
肝癌細胞に対するヒストン脱アセチル化酵素阻害薬の全般的な影響を検討する予定であった。そのため細胞のフェノタイプ変化(形態学的変化、増殖性の変化、分子マーカーの変化、アポトーシス、オートファジーの有無、レプリコン細胞におけるHCV RNA増殖の変化)と酵素化学的解析(ヒストンアセチル化活性、脱アセチル活性の測定、ヒストンメチル化活性、ヒストン脱メチル化活性)について行なう予定であった。フェノタイプに関しては、増殖性、アポトーシスの有無、オートファジーの有無、HCV RNA増幅の変化について成果が出た。酵素学的解析においては、ヒストンのアセチル化の有無を解析できた。オーとファジーについては既に、検討中の薬物SAHAによる変化の報告がなされてしまった。そのためヒストンメチル化酵素阻害薬であるDGNep (3-deazaneplanocin A)についてtime-lapse観察を含め一部検討した。形態学的変化の観察、分子マーカーの変化については、一部解析が不十分であったが、特にレプリコン細胞における観察に関しては、当初の予定よりも解析が進行した。すなわちヒストンアセチル化によりHCV RNAの増幅が抑制され、この変化が使用した薬剤SAHA以外のヒストン脱アセチル化酵素阻害薬であるtrichomycin Aについても同様の変化が生ずること、さらに、このHCV RNA増幅抑制に関しては、網羅的DNA array解析を行い、HCV増幅抑制をきたすと考えられる特定の遺伝子osteopontinとapolipoprotein-A1の発現変化が生ずることを明らかにすることができた。ヒストン脱メチル化による変化に関しては、上記の通り、オートファジーについて一部検討できたが、その他についての系統的な解析はできていない。
レプリコン細胞OR6を用いてヒストン脱アセチル化酵素阻害薬スベロイルアニリドヒドロキサム酸(SAHA)の作用を検討した結果、細胞増殖に影響しない濃度でレプリコンRNAの増幅を抑制した。さらにその際、HCV RNA増幅に影響するosteopontin、apolipoprotein-A1遺伝子発現が変化しており、これらの遺伝子プロモーター部位のヒストンアセチル化が生じていることが明らかとなった。この変化がこのレプリコン細胞OR6に特有なものかを検証する必要があるため、OR6細胞以外の細胞で同様の変化があることを検討する。さらに、OR6細胞ではウイルス粒子が産生されないため、ウイルス粒子を産生する培養系細胞を対象にしてSAHAの作用を検討する。この際使用する細胞は、杉山和夫博士が樹立したHCV粒子産生長期培養細を考えている。現在、本長期培養粒子産生細胞に関する報告を準備中である。さらに、ヒストン修飾のうち、ヒストンアセチル化による変化を検討したので、ヒストン脱メチル化による変化を検討する目的で、DGNep (3-deazaneplanocin A)を用いてHCV RNA増幅に対する影響、肝癌細胞に対する影響を検討していく。当初の予定では、平成25年度にはDNAアレイ、microRNAアレイ、メタボローム解析などの委託による研究が主となっていたが、金額的にも多数例の委託には困難があるため、平成24年度の結果を考慮しながら、肝癌細胞に障害をきたす変化とHCV増殖を抑制する変化に的を集中して、網羅的解析に進みたいと考えている。その後、キメラマウスなどを用いて、正常肝、肝細胞癌、HCVに対する作用を統合した形でin vivoにて検討する方向で研究を推進していきたい。
該当なし
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J Cell Biochem
巻: in press ページ: in press
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http://www.pha.keio.ac.jp/laboratory/laboratory16.html