研究課題
基盤研究(C)
本研究ではメタボリックシンドローム(MetS)の肝病態である非アルコール性脂肪性肝疾患(NAFLD)、特に非アルコール性脂肪肝炎(NASH)における肝内自然免疫系の機能的役割について検討し、新規予防・治療戦略を構築することを目的としている。今年度は、脂肪性肝炎を自然発症するKK-Ayマウスにおける制御性T細胞(Treg)の発現をFACS解析し、脂肪性肝炎の進展に伴いTreg分画の増加を認めた。しかし、MACSを用いて回収したTreg分画のサイトカイン発現を検討したところ、IL-4、IL-10、IL-13、TGFβ等のmRNA発現が著明に減弱していることが明らかになった。従って、Tregの機能不全がマクロファージのM1/M2バランスのシフトなどを介して脂肪性肝炎の病態形成に寄与している可能性が示唆された。Tregの機能的役割をより明らかにするべく、抗CD25抗体を用いたTreg枯渇条件下における脂肪性肝炎進展について検討中である。また、脂肪性肝炎の免疫栄養治療アプローチとして、KK-Ayマウスにおけるグリシンの脂肪性肝炎抑制効果について検討を加えた。グリシンにはエンドトキシン(LPS)による肝マクロファージ(Kupffer細胞)活性化抑制作用があることが示されているが、KK-Ayマウスに5%グリシン含有飼料を4週間投与したところ、体重増加抑制とともに、脂肪性肝炎の発症が著明に抑制されることが明らかになった。同マウスでは脂肪性肝炎の進展に伴いNKT細胞分画が進行性に枯渇するが、グリシン投与によりNKT細胞の枯渇が抑制され、肝組織中のTNFα発現も減弱した。従って、グリシンが肝内自然免疫系の賦活を抑制することにより、肝障害の抑止および肝代謝機能の改善効果を発揮するものと考えられた。
2: おおむね順調に進展している
本研究では脂肪性肝炎の免疫病態について、特にNKT細胞や制御性T細胞に着目して解析することおよび、治療アプローチの検討を行うことを目的としている。肝再生機転におけるNKT細胞およびNK細胞の機能的関与に関する検討は、すでに一定の結論が得られ、論文発表済みである。また現時点で、KK-Ayマウスおよび肝細胞特異的PTEN-KOマウスにおけるこれらの免疫細胞の発現動態に関する検討がほぼ完了しており、種々の介入研究に取り掛かっている。治療アプローチについては、アミノ酸のグリシンを用いた実験治療で良好な結果が得られており、その詳細なメカニズムについて検討中である。以上から、初年度の進捗状況としてはほぼ順調に目標を達成していると評価できる。
脂肪性肝炎の病態形成における制御性T細胞(Treg)の機能的関与を明らかにする目的で、抗CD25抗体および抗FR4抗体を用いたTreg枯渇条件における脂肪性肝炎の進展について、検討を進めている。また、NOGマウスおよびヒト幹細胞移入uPA-NOGマウスにおける脂肪性肝炎発症についても検討を開始する予定である。グリシンの脂肪性肝炎抑制効果については、そのメカニズムの詳細を解析中である。特に、グリシンによるマクロファージのフェノタイプ変化やインスリン抵抗性などの代謝機能調節について、検討を加える予定である。また、PTEN-KOマウスの脂肪性肝炎および肝発癌に対するグリシンの抑制効果についても検討を開始する。さらに、トリテルペノイドであるウルソール酸の脂肪性肝炎抑制効果とそのメカニズムに関しても検討を進める。
上記の検討を推進するため、次年度の研究費の一部は実験動物および試薬購入などの消耗品費に充当する。また、研究成果発表および最新の研究動向を調査する目的で、国内および国際学会への参加のため出張を予定している。
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