研究課題/領域番号 |
24590997
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研究種目 |
基盤研究(C)
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研究機関 | 近畿大学 |
研究代表者 |
西田 直生志 近畿大学, 医学部, 准教授 (60281755)
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研究分担者 |
波多野 悦朗 京都大学, 医学(系)研究科(研究院), 講師 (80359801)
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研究期間 (年度) |
2012-04-01 – 2015-03-31
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キーワード | 肝細胞癌 / エピゲノム / DNAメチル化 / 非アルコール性脂肪性肝炎 |
研究概要 |
非アルコール性脂肪性肝疾患(NAFLD)は肝発癌の母地となり得る疾患である。インスリン抵抗性を示し、NAFLDを基盤として発生したと考えられる肝炎ウイルス陰性ヒト肝癌をNAFLD関連肝癌と定義し、そのエピゲノム変化の特徴を解析した。ヒト肝癌とその非癌部の計60症例(NAFLD関連肝癌:20例、HCV関連肝癌20例、HBV関連肝癌20例)を用い、24種の遺伝子プロモーター上のCpG部位のメチル化レベルを解析した。加えて3種のDNA繰り返し配列のメチル化レベルを同定し、それぞれの原因別に肝癌に特徴的なエピゲノム変化を検討した。 C型肝炎関連肝癌では、早い段階からCDKN2A, APC, SOCS1, GSTP1, RUNX3, HIC1, RASSF1遺伝子プロモーターに異常メチル化が認められた。このうちHIC1, RASSF1遺伝子のメチル化はC型肝炎関連肝癌でより頻度が高かった。繰り返し配列でのメチル化レベルを検討したところ、早期の肝癌ではNAFLD関連肝癌やHBV関連肝癌で、より低レベルのメチル化を示し、HCV関連肝癌と比較して、ゲノム全体の脱メチル化の進行が早い傾向が認められた。それらの症例に関して、マイクロサテライトマーカーを用い、染色体欠失や増幅を検討したところ、脱メチル化の進行が早い肝癌では染色体変化がより広範囲に生じている事が明らかとなった。 一方、NAFLDは酸化ストレスが病態の進行に重要であることが予測されているため、肝癌細胞株、および胎児由来肝細胞株を用い、過酸化水素処理後に、各種のヒストン抗体で免疫沈降し、癌関連遺伝子プロモーターをターゲットとして定量的PCRを行った。いくつかの癌関連遺伝子では、過酸化水素処理(酸化ストレス)により、ヒストンが抑制型に変化し、酸化ストレスがエピゲノム変化を誘導し、DNAのメチル化の変化のトリガーをなる可能性が示唆された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
本年度はNAFLD関連肝癌、及び非癌部肝組織(それぞれ12サンプル、計24サンプル)から高分子DNAを抽出、bisulfite処理を行い、イルミナ社のビーズアレイシステムを用い、全ゲノム遺伝子プロモーター上のCpG部位のメチル化レベルを網羅的に解析する予定であった。しかし、ビーズアレイとその後の解析がよりスムーズに進み、得られる結果がより信頼できるものであるようにするため、いくつかの基礎的検討を追加した。まず、このサンプルサイズが小さく、またNAFLD関連肝癌の特徴を知る為にはHVC関連肝癌、HBV関連肝癌との比較が重要であると考え、NAFLD、HCV,HBV関連肝癌とその非癌部を計60ペア(トータルで120サンプル)とし、その収集を行った。また抽出されたサンプルの質の確認のため、まず24種の遺伝子プロモーターと3種のDNA繰り返し配列でメチル化レベルの定量を行い、サンプルの質とその後のbisulfite処理が充分であることを確認した。加えて、NAFLDの病態進展に重要な酸化ストレスの、エピゲノム変化への影響を見るため、肝癌細胞株、および胎児由来肝細胞株を用い、過酸化水素で処理し、その前後でのヒストン修飾の変化を検討した。これらの事実を確認したことにより、本研究の推進は今後、スムースに進むと思われる。
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今後の研究の推進方策 |
インスリン抵抗性を示し、NAFLDを基盤として発生したと考えられる肝炎ウイルス陰性ヒト肝癌(NAFLD関連肝癌)、及び非癌部肝組織(それぞれ12サンプル、計24サンプル)から高分子DNAを抽出、bisulfite処理を行い、遺伝子プロモーター上のCpG部位のメチル化レベルを網羅的に解析する。この解析にはイルミナ社のビーズアレイシステムを用い、全ゲノムにわたり、遺伝子プロモーター上の27,578か所のCpG部位のメチル化レベルが解析可能なイルミナ社HumanMethylation27 BeadChipを使用する。これは NCBI CCDSデータベースから選択されたプロモーターの他、文献で報告された既知の1,000以上の癌関連遺伝子、癌と非癌部で異なるメチル化パターンを示すと報告されている約150の癌遺伝子および110のmiRNA遺伝子のプロモーター領域をターゲットとしたchipである 。この結果をもとに、癌部と非癌部でメチル化レベル(average β値)に差があるCpGを持つ遺伝子プロモーターをp値、receiver operating characteristic (ROC)によるAUC解析、volcano plotにより、上位100遺伝子程度に絞りこむ
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次年度の研究費の使用計画 |
昨年度に収集したNAFLD、HCV,HBV関連肝癌とその非癌部を計60ペア(トータルで120サンプル)から高分子DNAを抽出、bisulfite処理を行い、遺伝子プロモーター上のCpG部位のメチル化レベルを網羅的に解析する。この解析にはイルミナ社のビーズアレイシステムを用い、全ゲノムにわたり、遺伝子プロモーター上および非プロモーターの含めて、メチル化レベルが解析可能なイルミナ社HumanMethylation450 BeadChipを使用する。この結果をもとに、癌部と非癌部でメチル化レベル(average β値)に差があるCpGを持つ遺伝子プロモーターを、主成分分析、有意差検定、差分解析で検討し、有意差検定により癌部と非癌部2群間でβ値 の差が大きなCpGサイト群を抽出する。 さらにメチル化の差異にどのような意味があるかについてパスウェイ 解析やGO解析、CpG-TRANSFAC解析を実施し、NAFLD、HCV,HBV関連肝癌での重要なエピゲノム変化を絞り込む。
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