研究課題
エピゲノム解析に基づき、脂肪性肝疾患からの発癌予測因子を絞り込むため、非ウイルス性肝癌(NBNC肝癌)の背景肝のメチル化の差異に影響を及ぼす臨床背景を明らかにした。肝癌(HCC)、その非癌部肝(ウイルス性37例、NBNC22例)を用い、DNAメチル化profileをイルミナ社HM BeadChip450を用い解析した。癌と非癌間でメチル化に差異のあるCpGを、β値の差とU検定の補正q値で抽出した。次にNBNC、およびウイルス陽性HCCの非癌部を、臨床背景別に群別し、上記で抽出したCpGのうち、各群間で差のあるものをU検定で抽出した。5種のHCC細胞株を脱メチル化処理し、発現が回復する遺伝子を、発現アレイを用いて解析した。この結果、癌部でメチル化が上昇する3052 CpG、低下する35279 CpGを抽出した。これらの内、NBNC非癌部で、年齢(≧70才)により差異のあるCpGが6517部位、糖尿病歴で47部位が抽出された。一方、性、飲酒歴、BMI、線維化別では差異のあるCpGは抽出されなかった。ウイルス陽性非癌部では、HBV/HCV:11164部位、線維化の程度:2896部位が抽出された。NBNC非癌部で、年齢がメチル化レベルに影響する遺伝子の中で、HCC細胞株の脱メチル化処理により発現が回復するものが111種、糖尿病がメチル化に影響する遺伝子で、脱メチル化処理により発現が回復する遺伝子が4種同定された。これらの結果より、ウイルス陽性例では、ウイルス種がエピゲノムprofileと関連するのに対し、NBNC非癌部では飲酒での差は認められなかった。一方、加齢や糖尿病の有無は、背景肝のエピゲノムprofileに影響し、その内のいくつかの遺伝子は、HCC細胞株でメチル化により不活性化しており、加齢や糖尿病が、DNAメチル化を介した発癌に寄与する可能性が示唆される。
2: おおむね順調に進展している
昨年度はNAFLD関連肝癌、及び非癌部肝組織から高分子DNAを抽出、bisulfite処理を行い、全ゲノムにわたり、遺伝子プロモーター上のCpG部位のメチル化レベルを網羅的に解析する予定であったが、サンプルサイズが小さく、十分な解析ができなかった。本年度はウイルス性肝癌37例、非ウイルス性肝癌22例を収集し、約45万のCpG部位のDNAメチル化レベルを、HM BeadChip450を用い解析した。さらに癌-非癌でメチル化レベルに差異のあるCpGを、β値の差>0.15かつU検定とFDR法による補正q値<1.0E-12を基準として抽出し、癌部に特徴的なメチル化の変化が生じるCpG部位を絞り込んだ。次にNBNC、およびウイルス陽性HCCの非癌部を、臨床背景別(糖尿病、BMI≧25、飲酒歴、HBV/HCV、性、年齢≧70才、F stage)に群別し、上記で抽出したCpGのうち、各群間で差のあるものをU検定のp<0.01かつBH FDR法の補正q<0.35で抽出した。さらに、これらのCpG部位の内、癌部でメチル化が上昇する部位に関して、そのメチル化の変化が対応する遺伝子の転写抑制を誘導しているかを確認するため、5種のHCC細胞株を脱メチル化処理し、発現が回復する遺伝子を、SurePrint G3 発現アレイを用いて網羅的に解析し、メチル化により不活化されていると考えられる遺伝子を抽出した。
本年度の成果により、上記の肝癌と非癌部でメチル化レベルに差があるCpGのなかでは、癌部でメチル化が上昇し、さらに非癌部とのβ値の差異が0.25以上かつ癌部と非癌部の差が補正q値で1E-13以下のCpGは1171部位であった。これらのCpGの存在する遺伝子のなかで、5種の肝癌細胞株を脱メチル化処理し、3種以上の細胞株で2倍以上の発現回復する遺伝子を基準に、さらに異常メチル化を示す遺伝子を絞り込み、そのメチル化が遺伝子の5’側に領域性をもって認められるものを選択して、最終的に、肝発癌に重要と思われる異常メチル化を示す遺伝子を70種まで絞り込んだ。今後は、これらに遺伝子の機能、および脂肪性肝炎における不活性化の有無を検討する予定である。
ビーズアレイによるメチル化解析、およびマイクロアレイによる遺伝子発現解析後の統計解析に使用予定の金額であったが、アレイのデータ収集の時期が1ヶ月遅れたため、未使用分として残った。現在すでにこの解析の為に使用しており、4月中に執行予定である。
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