研究課題/領域番号 |
24591000
|
研究機関 | 国立感染症研究所 |
研究代表者 |
加藤 孝宣 国立感染症研究所, ウイルス第二部, 室長 (20333370)
|
キーワード | C型肝炎ウイルス / 薬剤感受性 / インターフェロン / 慢性肝炎 / 肝発癌 |
研究概要 |
C型肝炎ウイルス(HCV)core領域アミノ酸70と91の変異は、インターフェロン(IFN)治療に対する抵抗性と肝発癌に関与していることが知られている。しかしその機序についてはよくわかっていない。そこでHCV JFH-1 株(genotype 2a)の非構造領域とgenotype 1b株の構造領域を持つキメラウイルスを用い、そのCore領域アミノ酸70/91に変異を導入した株を用いて、これらのアミノ酸変異がHCV増殖やIFN感受性に与える影響について検討を行った。 これまでJFH-1 株の構造領域をgenotype 1bのTH株に置換したキメラウイルスを作成し、そのキメラウイルスのcore領域にaa70(R/Q)とaa91(L/M)に変異を導入した株(TH/JFH1-RL株、RM株、QL株、QM株)を用いて、これらの変異がHCVの増殖やIFN感受性に与える影響を解析した。その結果、aa70の変異株(QM株, QL株)では感染性のウイルス粒子生成効率が低下しており、そこ結果HCV陽性細胞中のコア蛋白質量が増加していることが確認された。また、それらの細胞ではIFN刺激により細胞表面に発現するMHC ClassIの発現が抑制されていることも明らかになった。本年度はさらに別のgenotype 1b株としてCon1株の構造領域を持つキメラウイルスを用いた検討を行い、このキメラウイルスでもTH株と同様にaa70(R/Q)の変異が細胞内へのコア蛋白質の蓄積およびMHC ClassIの発現抑制に関わっていることを確認した。 これらの結果は、Core領域70番アミノ酸に変異を有するウイルスが、宿主細胞内に蓄積し抗原提示能を抑制することで宿主リンパ球による細胞障害を逃れることで、IFN治療に対する抵抗性を獲得していることを示していると考えられた。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
これまでの検討により、複数のgenotype 1b株の構造領域を持つHCVキメラウイルスを用いた検討により、コア領域aa70の変異があると感染性ウイルスの産生が低下すること、その結果ウイルス粒子生成に使用されなかったコア蛋白質が細胞内に蓄積すること、そしてそのような細胞ではMHC Class Iの細胞表面への発現が抑制されていることを明らかにした。 これらの知見は、このコア領域のアミノ酸変異が関与するIFN感受性や肝発癌について、その機序の一端を説明できるものであり意義深いと考える。 今後は、コア領域aa70の変異が感染性ウイルスの産生を低下させる機序とMHC Class Iの発現が抑制される機序について検討を行う予定である。特に細胞内コア蛋白質の細胞内局在とIFNシグナルとの関連性について検討する。
|
今後の研究の推進方策 |
これまでに得られた知見から、このコア領域aa70の変異はHCV粒子生成に影響を与え、さらに免疫細胞による感染細胞の排除に対する抵抗性に関わっていることが明らかになった。そこで、今後はこれらの現象がどのように誘導されているのか、その機序を明らかにする。 まず、これらの変異株導入細胞でコア蛋白質を免疫染色することにより、コア領域aa70の変異を持ったキメラウイルス感染細胞でのコア蛋白質の局在を評価する。特に粒子形成の場として知られている細胞内脂肪滴との共局在について検討を行う。 また、MHC Class Iの発現については、細胞内でのHCV複製により誘導されるPKRのリン酸化が深く関わっていることが先般報告された。そこで今後、我々が用いたキメラウイルスのコア領域aa70変異株導入細胞において、リン酸化PKRが増加しているかについて検討を行う。
|
次年度の研究費の使用計画 |
新規キメラウイルスの設計と作製、変異株の樹立に時間がかかり、コア領域変異株の細胞内局在などの検討が出来なかった。これらの検討については次年度に研究を行う予定である。 細胞内局在やIFNシグナルの研究のために、免疫染色用試薬や器具、Gene Expression用の試薬を購入する。またリン酸化タンパク質の定量を行うためのウエスタン電気泳動用試薬や器具などの消耗品を購入する。また研究成果発表のために学会出張用や論文投稿用の予算も計上したい。
|