研究課題
ウイルスの複製はウイルスRNA合成と蛋白翻訳の2つのステップに分けられる。しかしながら、それらの調整機構はわかっていない。そこで、複製に必須と考えられているNS5Aに注目し、HCV生活環に関与する宿主因子の同定のため、膜画分に含まれる蛋白のうちNS5 A蛋白に結合する宿主因子を検索し、20種の新規宿主因子を同定した。同定された宿主蛋白についてsiRNAを用いてウイルスRNA合成と蛋白翻訳への関与を解析したところ、ELAVL1、RCN1の蛋白が翻訳に、ATAD3A、ELAVL1、TBL2、RCN1、FKBP8の蛋白がウイルスRNA合成に重要な役割を果たしていることを見出した。共通するタンパクembryonic lethal, abnormal vision, drosophila-like 1 (ELAVL1)に注目して解析を行った。ELAVL1はゲノム複製により新規合成されたHCV RNAと結合して、ウイルスタンパク質翻訳を誘導した。さらに、ELAVL1は産生されたNSタンパク質と結合して、HCV RNAを複製複合体へリクルートするものと考えられた。以上のように、ELAVL1はHCV RNAの翻訳・複製を調節する宿主因子である可能性が示唆された。
3: やや遅れている
スクリーニングで絞られた候補蛋白のうちELAVL1は、感染細胞、レプリコン細胞等、細胞培養系を用いて、shRNAや野生型/dominant negative体の発現プラスミドでウイルス翻訳・複製への関与が確認できた。ELAVL1の複製、翻訳の調整メカニズムを解析できた。一方、恒常的にタンパク質を発現する発現株の取得に時間がかかったため、実験が期限内に終わらず、延長を希望した。
本研究3年間で、NS5A発現細胞からpull-down法によりNS5A結合膜タンパク質を精製し, プロテオーム解析、siRNA screeningにより翻訳および複製に関与しているタンパク質としてembryonic lethal, abnormal vision, drosophila-like 1 (ELAVL1)を見出した。ELAVL1はRNAに結合し安定性や翻訳に関与していることが知られている。ELAVL1はHuh7細胞で主に細胞質に存在していたものの、レプリコン細胞ではHCV複製複合体が存在する界面活性剤不溶性分画(DRM)に移行していた。ELAVL1はそのRNA recognition motif 1 (RRM1)、RRM2、Hinge domain (HD)で、それぞれHCVRNA、NS3、NS5Aと結合した。ELAVL1ノックダウンレプリコン細胞に各種ELAVL1欠損変異体を導入したところ、RRM2、HD欠損体では翻訳が復活したものの、複製は復活しなかった。さらに、レプリコン細胞にHD欠損ELAVL1を導入したところ、ELAVL1はDRMで検出されず、RRM1、RRM2、HD欠損ELAVL1を導入したところ、HCV RNAはDRMで検出できなくなった。HCV RNAのDRMへの移行には、ELAVL1が HCV RNAと結合し、さらにNSタンパク質と結合することが必要と考えられた。ELAVL1はゲノム複製により新規合成されたHCV RNAと結合して、ウイルスタンパク質翻訳を誘導する。さらに、ELAVL1は産生されたNSタンパク質と結合して、HCV RNAを複製複合体へリクルートするものと考えられた。今後は、免疫電顕を用いて、ELAVL1の翻訳・複製における細胞内局在変化を観察し、ELAVL1の翻訳・複製を調節機構の解明を目指す。
目的のタンパク発現のウイルス増殖に与える影響を調べるため細胞にタンパク発現プラスミドを強制発現させたが十分な発現が得られなかった。そこで抗生剤体制遺伝子を挿入し、恒常的タンパク発現細胞株を所得した。安定発現株の取得に時間がかかったため、実験が期限内に終わらず、延長した。
ELAVL1恒常的タンパク発現細胞株を用いてHCV感染増殖実験を行い、ELAVL1の増殖における役割を解析する。そのため、培養液、抗生剤、フラスコ等の購入をおこなう。また、研究の成果を公開・情報交換し、他の研究者の研究にも役立てるため、国際学会、国内学会に参加し発表、情報を交換する。
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すべて 雑誌論文 (8件) (うち国際共著 2件、 査読あり 8件、 謝辞記載あり 8件、 オープンアクセス 5件) 学会発表 (30件) 図書 (1件) 備考 (1件)
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