研究課題/領域番号 |
24591008
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
佐々木 隆 東京大学, 医学部附属病院, 助教 (10569106)
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研究分担者 |
毛利 大 東京大学, 医学部附属病院, 特認臨床医 (20582513)
伊地知 秀明 東京大学, 医学部附属病院, 助教 (70463841)
池上 恒雄 東京大学, 医科学研究所, 准教授 (80396712)
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キーワード | 胆嚢癌 / MAPKシグナル / PI3Kシグナル / MEK阻害剤 / mTOR阻害剤 |
研究概要 |
胆道癌のなかで最も予後不良であり、治療の分子標的も明らかとなっていない胆嚢癌について、我々はこれまでに臨床検体においてMAPKシグナルおよびPI3Kシグナルの活性化がみられることを見出しており、これらのシグナルが治療の標的となる可能性がある。ヒト胆嚢癌培養細胞株のin vitroでの増殖を検討すると、MEK阻害剤およびmTOR阻害剤はそれぞれ単独にても増殖抑制効果を示し、併用するとさらに強い増殖抑制効果を示した。この胆嚢癌細胞株をヌードマウスの皮下に移植しin vivoにおけるこれらの阻害剤の抗腫瘍効果を検討したところ、無治療群に比べMEK阻害剤、mTOR阻害剤とも、単独投与にて有意に皮下腫瘍volumeの抑制がみられ、これらの併用では単剤投与よりもさらに強い抑制効果を示す傾向がみられた。皮下腫瘍の免疫組織学的検討でも、MEK阻害剤投与によりリン酸化ERK発現の減弱、mTOR阻害剤投与によりリン酸化S6発現の減弱がみられ、両者の併用では、リン酸化ERK・リン酸化S6の双方の発現が減弱していた。PCNAの核染色も阻害剤投与群で抑制されていた。さらに、in vivoにおいても腫瘍細胞のアポトーシスの増強もみられた。 一方、MAPKシグナルとPI3Kシグナルにはシグナル間のクロストークの存在も報告されており、胆嚢癌細胞株に各阻害剤を投与した際の各シグナルの変化を検討したところ、mTOR阻害剤投与によりMAPKシグナルが増強し、かつAKTのリン酸化も増強するというフィードバックループの存在が示唆された。また、細胞周期関連蛋白の発現も各阻害剤により抑制の状況が異なり、両阻害剤併用によりよく抑制されることが明らかとなった。 in vitroにおける増殖抑制・アポトーシス増強よりin vivoでの効果の方が明瞭であり、癌細胞内のシグナルのみでは説明されない細胞外環境の影響も示唆された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
これまでの結果に加え、MEK阻害剤、mTOR阻害剤による細胞内シグナルの変化、クロストークの存在、細胞周期関連蛋白の制御の検討を加え、またin vivoにおけるアポトーシスの変化を検討した。ここまでの結果をまず論文として発表するため論文作成を行っている。
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今後の研究の推進方策 |
まずは論文を英文誌に投稿し発表できることを目標とする。今後の研究の発展としては、実臨床への本研究の応用を念頭におくと、現在の標準治療薬と比較してMEK阻害剤+mTOR阻害剤併用療法が優越性を持つかという点が重要となってくる。そこで、標準治療薬gemcitabineの抗腫瘍効果をここまで用いてきた胆嚢癌モデルで評価し、MEK阻害剤+mTOR阻害剤併用療法の成績と比較する必要がある。in vitroのヒト胆嚢癌細胞株及びin vivoの皮下移植xenograftに対し、胆嚢癌の標準治療薬gemcitabineを投与し、MEK阻害剤+mTOR阻害剤併用治療の抗腫瘍効果とのインパクトの相違・組織学的変化・細胞内シグナル変化の相違を比較検討する。 我々は、これまでに膵癌細胞を用い、gemcitabineがEGFR-MAPKシグナルの活性化を起こすという現象を見出している。胆嚢癌でも同様の現象がみられるとしたら、MEK阻害剤を併用することは理論上も合目的的である。そこでgemcitabine+MEK阻害剤+mTOR阻害剤三者併用療法によって、in vitro及びin vivoにおいて更なる上乗せ効果がみられるかを検討する。in vitroでの細胞増殖能の変化、シグナル伝達系の免疫組織学的・生化学的検討、in vivoにおける腫瘍サイズの経時的観察、4週投与後の腫瘍組織の組織学的・生化学的検討を行っていく。
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次年度の研究費の使用計画 |
ほぼ予定額と使用額が同等であったが、in vitroの細胞培養実験の条件検討に要した実験の再現性が比較的速やかにとれたために未使用となった部分があった。 今年度は、まずこれまでの結果の投稿から開始するため、論文掲載費用として約20万円を計上する。reviseを含めin vitroの細胞培養関連に約50万円。胆嚢癌細胞株のin vivo移植モデルでの実験については、動物購入・飼育費に約20万円、皮下腫瘍の免疫組織学的・生化学的解析に約30万円と試算している。
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