研究課題
膵内在性トリプシンインヒビター(Spink3)欠損マウスは膵外分泌機能不全の結果、出生後2週間以内に死亡する。そのため、ヒトホモログSPINK1遺伝子をcre-loxPシステムで置換し、片方のアリルを欠失することで、SPINK1遺伝子の発現量を低下させたマウスの樹立を行い、解析した。このマウスは生後4週齢でヒト慢性膵炎の特徴である膵腺房細胞の脱落と広範な線維化を来たした。さらに、このマウス膵臓では膵星細胞の活性化をaSMAのウエスタンおよび免染色で確認した。膵星細胞はビタミンAをよく取り込むことが知られているため、ビタミンAを表出したリポソームを作製し、薬剤を膵星細胞に特異的に取り込ませることで、選択的に活性型星細胞を死滅させ、膵臓の線維化を抑制する戦略である。まずビタミンA表出リポソームが膵星細胞に特異的に取り込まれる確認から行った。この確認にはこのリポソームにローダミンを取り込ませて、実験を行った。4週齢の慢性膵炎モデルマウスに、①ビタミンA (-)リポソーム+ローダミン、②ビタミンA(+)リポソーム+ローダミンを0.2mlずつ腹腔内投与し、投与2時間後に膵臓を摘出し、凍結切片作製後、蛍光顕微鏡を用いて、ローダミンの蛍光を観察した。①ビタミンA (-)リポソーム+ローダミンではローダミンの蛍光は観察されなかった。つまり、リポソームは膵臓に取り込まれていないことが判明した。対照的に、②ビタミンA(+)リポソーム+ローダミンでは膵臓で、ローダミンの蛍光が強く観察された。つまり、ビタミンAを表出したリポソームが膵臓に多量に取り込まれていることが判明した。次に、①ビタミンA (-)リポソーム+クロドロネート、②ビタミンA(+)リポソーム+クロドロネートを投与し、aSMAを指標に星細胞の活性化を観察したが、aSMAの低下は顕著ではなく、期待していた効果が見られなかった。
3: やや遅れている
すでに実験に用いるモデルマウスの作出には成功している。このマウスは致死性がなく、交配は容易である。またこのマウスでは3週齢からひと慢性膵炎に類似する病態を呈するようになり、4週齢でほぼ完成することも確認した。リポソームの作製は既に共同研究者との間で、作製の方法についての検討は終わっている。現在ローダミン、及びクロドロネート(クロドロネートを貪食した細胞はアポトーシスが誘導される)は既に作製しており、ローダミンでは膵臓に特異的に蛍光が確認出来たため、選択性は確認できた。しかしクロドロネートでは、星細胞の活性に変化が見られず、今後さらなる条件検討が必要である。
1.ビタミンA表出リポソームが活性型膵星細胞に特異的に取り込まれていることを証明する。その方法として、活性型膵星細胞のマーカーであるalfa smooth muscle actin; aSMAとローダミンの二重染色を行い、その蛍光が一致するのかを明らかにする。2.既にクロドロネートを含有したリポソームは作製している。このクロドロネートを含有したビタミンA表出リポソームを投与した際に、活性型星細胞に選択的にアポトーシスが誘導されているのか否かを明らかにするため、aSMAの免疫染色、ウエスタンによって、評価を行う。平成25年度の結果、選択的に膵臓に取り込まれていることは確認出来たが、クロドロネートを取り込ませても十分な効果が見られなかった。いくつかの理由が考えられるが、投与時期(慢性膵炎がすでに完成している4週齢が適切か?)、クロドロネートの投与量は適切か?、投与方法は腹腔内投与、静脈投与のどちらが効果的か?、等の条件検討が必要である。3. 様々な薬剤(現在膵星細胞に焦点をあてた治療として効果が期待される薬剤として、Rho kinase阻害剤、MAPK阻害剤、アンギオテンシン変換酵素阻害剤、抗酸化剤などが挙げられる。その他、HSP47 siRNAなど)を取り込んだリポソームの作製を行い、今後順次研究を行っていく。
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