研究実績の概要 |
膵癌細胞株(PANC1,BxPC3,Capan1)においてEGFR-TKI(ゲフィチニブ:GEF)を添加培養することでオートファジーが誘導された。一方,マクロライド系抗生剤であるクラリスロマイシン(CAM),アジスロマイシン(AZM)や新規12員環マクロライド系化合物のEM900を膵癌細胞株に添加培養するとオートファジー後半部のプロセスが阻害され,細胞質内に数多くのオートファゴソーム/オートリソソームの蓄積が観察された。種々の濃度下でマクロライド3剤間のオートファジー阻害活性を比較すると,AZMが最も強く,EM900,CAMの順であった。これらマクロライドは単剤では細胞毒性をほとんど発現しないが, GEFと併用することでGEFに殺細胞効果を増強することが3剤全で観察された。これは,マクロライドのオートファジー阻害活性と相関し,AZM,EM900,CAMの順であった。以上より,GEFによるオートファジー誘導は細胞保護的(cytoprotective)に機能し,これをマクロライドで効率的に阻害することで膵癌細胞死を強力に誘導できると考えられ,EGFR-TKIの治療効果を上げる“chemo-sensitizer”としてのマクロライドの臨床使用の可能性が示唆された。 興味深いことに,GEF/マクロライド併用による細胞死増強は,当初ERストレス負荷によるアポトーシスを想定していたが,アポトーシスはほとんど観察されず,ネクロプトーシス(necroptosis)が誘導された。 マクロライドのオートファジー阻害活性の分子標的の同定ならびにオートファジー阻害によるネクロプトーシス誘導の分子基盤は今後の検討課題と考える。尚,ナノ粒子を用いた研究に関しては,ナノ粒子の不安定性,データーの再現性を本研究期間内に解決する事ができず,プロジェクトの軌道修正を行った。本研究成果は現在,論文投稿準備中である。
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