小型ロイシンリッチプロテオグリカンであるルミカンの発現は、膵臓癌細胞の増殖や浸潤に関与することを培養膵臓癌細胞の一つであるPANC-1細胞を用いた検討により、これまでに明らかにしている。 今回、ルミカンが膵癌細胞の増殖や浸潤に関与する際の細胞内シグナル伝達経路を明らかにするため、以前の検討に用いたルミカン過剰発現PANC-1細胞とルミカン発現抑制PANC-1細胞より抽出したタンパク質を用いたショットガンプロテオミクスを行い、ルミカンにより発現が調節されているタンパク質の網羅的解析を行った。その結果、ルミカンの過剰発現細胞より448種類、ルミカンの発現抑制細胞より451種類のタンパク質をそれぞれ同定することができた。スペクトラルカウント法を用いた比較定量解析を行ったところ、対照細胞と比較して過剰発現細胞では174種類、発現抑制細胞では143種類のタンパク質の発現量がそれぞれ2倍以上変動していた。過剰発現系と発現抑制系の2種類の比較解析の結果を検討したところ、24種類のタンパク質がルミカンの発現と相関関係を示すことが明らかとなった。これらのタンパク質には、アポトーシス関連タンパク質やMMP-9の活性制御に関わるタンパク質が含まれていた。 そこでルミカンとアポトーシスとの関連を検討した所、上記プロテオミクス解析でも相関性が認められたAnnexin A5の発現がウェスタンブロット法でも同様に変動していることが明らかとなった。また、アポトーシスの主要経路の一つであるBcl-2ファミリーの発現を確認した所、Baxの発現量とルミカンの発現量に相関性があることが認められた。このことから、ルミカンはBaxの発現を抑制することでアポトーシス誘導を抑制し、その結果膵臓癌細胞の増殖を亢進させることが示唆された。
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