【背景】光を用いた生体観察技術は、低侵襲性と鋭敏さから医学生物学領域で幅広く用いられている。この技術の一つである内視鏡は、患者に侵襲を加えることなく各種消化管疾病を観察し、診断・治療することが可能であり、現代の消化器病学に必須の機器である。近年、より鋭敏かつ客観的な内視鏡診断を目的として、不可視領域の可視化技術に注目が寄せられている。【目的】本研究は、病態生理を反映しかつ内視鏡に利用応用可能な光計測技術として「蛍光偏光解消法」を取り上げ、同法によって癌部・非癌部の区別が可能か否かをヒト大腸癌手術検体にて検討する。これにより蛍光偏光解消値という客観的数値による癌の領域診断を行うという試みである。【方法】平成24~26年度において当院にて手術を施行された担癌患者14人を用い検討を行った。癌部・非癌部の蛍光偏光解消値(FP値)はCCD搭載の蛍光顕微鏡と画像プロセッサにて算出された。この他、H&E染色・免疫組織学的染色により病理学的検索を行った。【結果】a)蛍光偏光解消法による検討結果 HE染色にて正常と判断された領域のFP値は0.30±0.12であり、同様に腺腫・高分化腺癌と診断された領域のFP値は各々0.14±0.03、0.16±0.11であった。b)病理組織学的・免疫組織学的検討 8-OHdG染色性においては腺腫>高分化腺癌>非癌部の順で強く染色される傾向を認めたが、抗4HNE抗体による染色では一定の傾向を示さなかった。【考察】本検討により癌部と正常部では膜の流動性に相違があることが明らかになった。さらに分化度においても流動性の違いがある可能性が示された。これは同法により病変の数値診断が可能であることを意味し、同法が光学的生検方法として有効であることを示す。
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