研究実績の概要 |
分枝膵管型IPMNの大多数は良性であり,発見時に切除されることは少ない.しかし,進行して膵癌になる症例が認められること(年率0.45%),また一見病変のない膵実質に膵癌が高頻度に発生すること(年率1.1%)が報告されている.しかし,現時点で癌化の危険因子が不明であることから,切除適応のない分枝型IPMNでは漫然と画像診断による経過観察が行われているのが現状である.そこで,病変の増大,進行および癌発生の指標となるようなバイオマーカーが同定できれば大変意義深い.本研究においては内溶液のプロテオーム解析を行い,診断時の良悪性鑑別診断並びに増大,進行および癌発生予測が可能となるバイオマーカーを抽出する.当院の臨床研究審査委員会において本臨床研究の妥当性を諮り承認を得た上で,MRCPとCTにて分枝膵管型IPMNが疑われた症例から94病変に対してEUS-FNAを施行した.その内,吸引可能であった85病変において内溶液の正常から粘液性病変と診断され,病理組織学および免疫組織科学的に胃型IPMNと診断された.ガイドライン上の切除適応病変は10例であり,全例で外科的切除が施行された.切除検体の病理診断で上皮内癌が4例,腺腫が6例であった.上皮内がん4例のうち,3例は術前のEUS-FNAで異型の強い上皮が採取されており,75%で術前に癌の診断が可能であった.また残りの75例は画像診断により経過観察が行われているが3例で明らかな病変の増大が認められ外科的切除が行われたが1例で上皮内癌が認められた.増大の認められた3症例の術前EUS-FNAは軽度異型を示すのみで増大の予測は困難であった.上記のうち,病理診断が上皮内癌と腺腫であり粘液が十分採取できた3例の検体からプロテオーム解析を行い,TOF-MASSにより糖鎖分子A, Bがバイオマーカーとなりうる可能性が示唆された.
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