研究実績の概要 |
【目的】心腎連関を呈する慢性心不全症例を対象とした東洋医学的アプローチの有用性を検討するため,防已黄耆湯の内服治療の有効性と安全性を検討する。 【方法・結果】ステージBまたはCの代償期慢性心不全で,ステージ3以上の慢性腎不全を合併する26例を対象とした。日本循環器学会による慢性心不全の診療ガイドラインに従った従来の薬物治療に加えて,防已黄耆湯を2.5-5.0 g/日で投与開始し,最大7.5 g/日まで増量し,平均3.5ヵ月および9.4ヵ月後の有効性と安全性について,自覚症状と血液検査を中心として臨床的に評価した。腎機能の指標としてBUN, 血清クレアチニン, 推定糸球体濾過量(eGFR),また心不全の指標として脳性ナトリウム利尿ペプチド(BNP)の推移を検討した結果,いずれの指標も投与前後の比較で有意な改善を認めた。各症例の評価時点におけるeGFR値の変化率を横軸に,BNP値の変化率を縦軸にプロットした結果,右下(eGFRの上昇およびBNPの低下)に位置する測定ポイントが全体の65%に達し,心腎両面への改善効果が示唆された。 【結語・総括】心腎連関を呈する慢性心不全症例において,防已黄耆湯の利水作用は心不全および腎機能の両面における有効性が示され,経過中の安全性も確認できた。本研究課題は,日本循環器学会で学会発表の後,信州医学雑誌に論文発表した。また,信州医学会より,第14回信州医学会賞を受賞した。要旨は漢方医学(39: 43-46, 2015)に掲載された。 【展望】本研究では少数例における平均9.4ヵ月後までの有効性が示された。多施設で症例を重ね,さらに長期の有効性と安全性の検証が課題である。
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