研究課題
急性心筋炎、拡張型心筋症は死亡率が高く予後不良であるにもかかわらず、未だ確立された根本的治療法がない疾患である。本研究では劇症型を呈しやすいと報告されている自己免疫性心筋炎モデルを対象とし、グレリンの投与がT細胞の反応を調節し自己免疫性心筋炎の進展を抑制するという仮説を立て検証した。雄Lewisラットにブタ心臓ミオシンを皮下投与し自己免疫性心筋炎モデルを作製した。第4週目より、グレリン(100mg/kg皮下、1日2回)または溶媒のみ(対照群)の投与を3週間行った。6週間後に、心エコー、左心カテーテルによる血行動態検査を行い、心臓摘出後に組織学的評価を行い遺伝子発現について調べた。心エコー検査では、グレリン投与群において左室径の拡大並びに左室内径短縮率の減少が有意に抑制されていた。また、グレリン投与により左室拡張末期圧の上昇が有意に抑制され、dP/dtは増加した。さらに、グレリン投与の心筋では1型ヘルパーT細胞より分泌されるTh1サイトカインであるinterferon-γやinterleukin (IL)-2のmRNAの発現が減少し、2型ヘルパーT細胞からのTh2サイトカインであるIL-4とIL-10のmRNAの発現が増加していた。TNF-α、MCP-1、およびCollagen IIIのmRNA発現も抑制されたが、Collagen IおよびTGF-βについては変化が認められなかった。さらに、Sirius Red染色およびMasson trichrome染色による病理組織学的検討では、グレリン投与群は対照群に比べ左室コラーゲン密度が有意に減少し、Hematoxylin-eosin染色では炎症細胞浸潤が明らかに軽減していた。これらの結果より、グレリン投与は自己免疫性心筋炎の進展を抑制したといえる。この機序として、ヘルパーT細胞のTh1/Th2バランスの修飾や心筋線維化の抑制の可能性が示された。
3: やや遅れている
心筋炎での浸潤炎症細胞におけるグレリン受容体抗体(GHS-R)の発現の検証が予備実験で再現性をもって証明できず、現在実験条件等を変えて検証している。拡張型心筋症モデルのハムスターへの実験は、予備実験でPCRによる遺伝子発現の条件が定まっておらず、現在検証している。
ラット自己免疫性心筋炎モデルを用いたグレリン投与の効果とメカニズム解明を引き続き行う。現在進行中の検討に加えて、心臓並びに浸潤細胞でのグレリン受容体(GHS-R)の発現を免疫細胞染色等により調べる続いて、拡張型心筋症におけるグレリンの抗心臓リモデリング効果について検討する。拡張型心筋症モデルのハムスター(Bio TO2)を用いる。グレリンおよびGHS-Rの発現を調べた後、グレリンの投与を行う。心臓リモデリングへの効果は、①心臓組織(Sirius Red染色、TUNEL染色等)、②心臓形態と機能(Aplio 80, Toshiba Medical system、15MHzプローブを用いた心エコーを使用)、③血行動態(AD Instruments社製PowerLab systemを用いたカテーテル検査)、④心臓での遺伝子発現(Applied Biosystems 7500)等にて行う予定である。最後に、eNOS KOマウスおよび高血圧自然発症ラット(SHR)にAngiotensin IIを浸透圧ポンプで投与することにより高頻度に心房リモデリングと心房細動を引き起こす心房細動モデル動物を用い、定量PCRにて心房でのグレリン並びに受容体(GHS-R)の遺伝子発現をみるとともに、心房組織においてグレリン抗体(Phoenix Peptides)およびGHS-R抗体(Santa Cruz)を用いた免疫組織染色を行う。そして、同モデルに対しグレリンの投与(200μg/kg/日 2~4週間)を行い、グレリンの心房細動抑制効果並びに心房リモデリング効果をみる。具体的には、グレリンを急性投与した際、心電図記録を行い心房細動の発生をみる(AD Instruments社製PowerLab system)。同心電図により心拍変動スペクトル解析も行い、自律神経の変化も検証する。そして、抗心房リモデリング効果を心臓超音波検査により評価する。次に、取り出した心房において免疫組織染色を行い、グレリンおよびその受容体GHS-Rの発現を調べると同時に、Connexin 40、Connexin 43、そして炎症関連マーカー等の発現を検討する。
残額分は3月に納品となったため支払いが完了しておらず、次年度使用額が生じた。平成26年4月に支払い完了予定である。
すべて 2014
すべて 学会発表 (1件)