研究課題
平成26年度には脂肪細胞による血管内皮細胞成長因子(VEGF-A)産生に対するω-3系脂肪酸の効果とその機序を詳査した。すなわち、成熟3T3-L1脂肪細胞にeicosapentaenoic acid (EPA)を投与すると、VEGF-AのmRNA発現、培養液中への分泌が増加した。この効果はGタンパク質共役受容体120 (GPR120)のsilencing、GPR120の下流の細胞内情報伝達系を構成するPKC、PI3 kinaseの阻害、またはPPAR-γの薬物的阻害によってそれぞれ抑制された。また、HEK293細胞にGPR120、PPAR-γの一方または両方を遺伝子導入したところ、EPAによるVEGF-Aの転写活性化作用は両者の同時発現下で最も増強された。さらに、GPR120遺伝子導入細胞では、EPAがPPAR-γのVEGF-Aプロモーター領域内のPPREへの結合を促進することが判った。以上より、EPAは脂肪細胞において、細胞膜上のGPR120/細胞内情報伝達系を介して、および核内受容体PPAR-γのリガンドとして直接的にVEGF-Aの転写を促進することが示された。研究期間中の知見は次の通り。1) 肥満例における脂肪細胞ではNADPH oxidase (NOX)による酸化ストレスが増加、腫瘍抑制因子Arfによる緩和作用が不足している。2) 脂肪細胞に対してω-3系脂肪酸EPAとDHAは善玉サイトカインadiponectinの発現を維持しつつ炎症性サイトカインIL-6の遺伝子発現を抑制、ω-6系のアラキドン酸はadiponectinの発現を抑制し、IL-6の発現は促進する。3) NOXを抑制するangiotensin II receptor blockerは、脂肪細胞におけるVEGF-AおよびIL-6の発現を抑制する(論文化済み)。4) EPAは肥大脂肪細胞において、細胞膜上受容体GPR120と核内受容体であるPPAR-γへの結合により、間接的、直接的に、VEGF-Aの転写を促進する(論文化済み)。以上の結果は、動脈粥状硬化巣の周囲の肥大・虚血下脂肪組織でのVEGF-Aを介した血管新生と病勢との関係および、それへの介入に資する価値ある新知見と考える。
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