研究課題
急性冠症候群の病態解明、なかでも早期診断法の確立に向けた取り組みとして、急性冠症候群患者に対する緊急心臓カテーテル検査時に血液サンプルを取得する。対象は福島県立医科大学附属病院で急性心筋梗塞あるいは不安定狭心症(急性冠症候群)と診断され、治療を受ける患者のうち、本研究に関する同意を得られた症例。大動脈および冠静脈洞から採血を実施している。急性冠症候群の定義や冠動脈造影の適応については日本循環器学会の「急性冠症候群の診療に関するガイドライン2007年改訂版」に従っている。急性冠症候群に特徴的なバイオマーカーを特定するには対照群が必要であるが、その対象疾患として労作性(安定)狭心症を設定した。それは当院で労作性(安定)狭心症を疑われて同意の上で待機的冠動脈造影検査を受けた症例とした。両群とも冠動脈造影検査および研究用採血に同意が得られなかった症例は除外した。これまでのところ、急性冠症候群のサンプルが約70例、対象としての安定狭心症群約70例分集められた。血液サンプルは心臓カテーテル検査・治療の際に経カテーテル的に上行大動脈と肝静脈洞から採取し、血漿分離用および血清分離用試験管にて遠心分離器で血清および血漿成分に分離して冷凍保存している。これまで、可溶性レクチン様酸化LDL受容体-1(LOX-1)とテネイシンC(tenascin-C)ついて検討したところ、興味深い結果が得られている。これらついては現在、論文の投稿中である。
2: おおむね順調に進展している
計画手順に従い、対象患者から血液サンプルを収集し、血漿および血清の分離、冷凍保存を行っている。また、付随する臨床データ(年齢、性別、各種一般臨床検査成績、治療内容、服薬内容、予後を含む臨床経過など)もデータベースを構築して集積中である。これまで集積した検体を用いていくつかのバイオマーカーについてそのレベルを測定した。上述したように、可溶性レクチン様酸化LDL受容体-1(LOX-1)は急性冠症候群においてその血中レベルの上昇が確認された。また、テネイシンC(tenascin-C)ついてはカテーテルインターベンション(PCI)の際に実施している血管内超音波(IVUS)の所見から得られる冠動脈プラークの破綻像との関係が有意となる所見を得ている。プラークの破綻は急性冠症候群の発症機序として重要なメカニズムであり、大変興味深いデータである。これらの結果は現在論文投稿中である。一方、急性冠症候群の早期マーカーになり得るかと期待した炎症性免疫の状態を表すネオプテリン(neopterin)に関しては、我々のサンプルでは急性冠症候群に特異的な挙動は示さなかった。血液サンプルの収集数は当初の想定よりもやや少なくなっている。その理由として、急性冠症候群の発症は日時を予想できるものではないので、深夜や休日の治療も多く、人手が足りない場合には患者や家族の同意取得のための充分な説明時間をとれなかったり、ベッドサイドでの治療を優先させるために検体処理に人手が割けなかったりすることが挙げられる。
これまで得られたデータの整理、解析を進めるとともに、検討すべき物質の濃度を信頼性の高い測定系を用いて測定する。当初、スクリーニング候補にあったペントラキシン3(pentraxin 3)については、他の施設から急性心筋梗塞との関連を示すデータがすでに論文発表されたため、検討項目から除外する方針とした。代わりに鎖式不飽和アルデヒドの一つであるアクロレイン(acrolein)について検討する方針とした。アクロレインは近年脳梗塞のリスクマーカーとして報告されているが、心筋梗塞の領域ではまだまとまった報告がみられていない。従来からスタンダードとして用いられているトロポニンIや高感度CRPも同時に測定し、それらとの相違点についても検討する。また、(1)冠静脈洞から採決したサンプルと(2)大動脈から採血したサンプルでそれぞれ測定し、(1)と(2)の差を求めることによって、対象物質が心臓の血管床から放出されたものかどうかを検証する。さらに冠動脈血栓およびプラークを吸引した場合には、吸引された検体で対象物質の免疫組織染色等を行うことにより、実際の病変組織でバイオマーカー発現を検討することも計画している。これらのデータと患者の臨床指標(各種一般臨床検査値、心筋梗塞サイズ、合併症、心機能の変化、危険因子、予後など)を比較検討し、急性冠症候群の診断やリスク層別化にどのように役立つかを明らかにする。
旅費が予定より少なかった。実験計画に添って使用していく。
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すべて 雑誌論文 (17件) (うち査読あり 16件、 オープンアクセス 1件) 学会発表 (45件) (うち招待講演 7件)
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