我々はこれまで、末期腎不全患者において血管障害イベント(脳血管障害・心血管障害・四肢虚血疾患)の新規発症および死亡をエンドポイントとして、登録時の血中S100A12タンパク質濃度がその寄与因子となるかを前向き観察で検討し、2年間観察を終了した847例において、①血管障害イベントによる死亡群の血中S100A12タンパク質濃度が非死亡群より有意に高値であること、②血中S100A12タンパク質濃度の中央値にて2分割して生存率をKaplan-Meier生存分析法で解析すると、S100A12濃度高値群において低値群より有意に生存率が低いことを明らかにしてきた。 これらの結果をふまえ、今年度は同症例のうち最終的に6年間前向き観察できた393例において再検討した。結果は観察終了時点において①新規または再発血管障害発症群(n=80)の血中S100A12タンパク質濃度は非発症群と有意な差は認めず(29.4 vs 25.6 ng/ml:p=0.0834)、②登録時の血中S100A12タンパク質濃度の中央値にて2分割して生存率をKaplan-Meier生存分析法を用いて解析しても、S100A12濃度高値群と低値群の間に生存率の差は認めなかった(LR test:p>0.05)。また血管障害イベントによる死亡群(n=16)での同様の比較でも血中S100A12タンパク質濃度および2分割生存率ともに差は認めなかった。 これらの結果より、登録時の血中S100A12タンパク質濃度がその後の血管障害イベントへの寄与因子となるのは、2年後程度まででそれ以降は寄与の度合いは少なくなっていく事が明らかとなった。おそらく、血中S100A12タンパク質濃度も変動が認められるために登録時の測定濃度が反映される期間は限られるためではないかと考えた。
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