研究課題
摘出心臓の光学的解析手法(optical mapping analysis)は致死性不整脈病態生理解明に有力である。本年度は、ラット肺動脈性高血圧モデルの致死性不整脈におけるmechanoelectric transdaction の関与の検討をさらに深めるため「片肺全摘ラットモデル」を用いて以下の検討を実施した。即ち、本モデルは肺癌治療において片肺全摘手術は頻用される治療手技であり、この際の術後不整脈の機序に関して詳細は不明である。そこで、片肺全摘ラットモデルにて摘出心臓にoptical mapping解析を実施し、不整脈の発生機序について検討を加えた。SDラットの左片肺を全摘出し、1日後、4 日後、1 週間後、2 週間後、4 週間後に肺動脈圧を測定するとともに,心臓を摘出し、Tyrode 液で還流して、Na channel 脱分極感受性色素(di 4ANEPPS)で染色した。また、心室の脱分極様式・速度・活動電位の不均一性(action potential duration dispersion:APDd)を測定した。さらに、心室頻拍(VT)・細動(VF)の誘発を試みた。その結果、片肺全摘手術後1 日目から肺動脈圧は著明に上昇し、2 週間持続、4 週間後には正常値に代償した。肺動脈高血圧を呈した期間、右心室の伝導障害とAPDdの拡大、VT/VFの誘発頻度が増加した。これらの所見から、片肺全摘手術後の心室性不整脈には、右心室圧の上昇に伴う右心室伝導障害・再分極の不均一性がその機序として関与することが示唆された。この機序の一つにmechanoelectric transdactionが深く関与すると考えられる。
2: おおむね順調に進展している
光学的解析手法(optical mapping analysis)は不整脈の発生機序の解析に極めて有用である。平成24 年度は、ラットにモノクロタリン(MCT)60mg/kg投与して肺高血圧症を作成、摘出Langendorff灌流心を用いoptical mapping analysisを実施し、合わせてSildenafilとBeraprost併用療法を施行して、重症肺高血圧症による右心室圧負荷より右心室起源の致死性不整脈が誘発されるか検討した。結果、重症肺高血圧症では、右心室圧負荷より電気的リモデリングと心筋活動電位持続時間のばらつき(APDd異常)が生じ、右心室不整脈源性が生じることが示された。また、SildenafilとBeraprost併用療法で肺高血圧症が改善すれば、病理学的変化の抑制、致死性不整脈誘発も改善された。これらは、病的右心室圧負荷と致死性不整脈発生の密接な関係を示唆する。即ち、機械的刺激(圧負荷)が電気的異常(不整脈)を 惹起する機序、いわゆるmechanoelectrictransduction が肺動脈性高血圧症を始めとする右心負荷時の致死性不整脈の病因であることを支持する所見と考えられる。これらの結果は、本研究の主目的である「mechanoelectrictransduction が肺動脈性高血圧症を始めとする右心負荷時の致死性不整脈の病因であるか否か」を明らかにするうえで重要な結果である。この研究を踏まえ、さらに平成25年度は、肺全摘手術術後の右心室負荷モデルにて、「研究実績の概要」で示した如く、平成24 年度と同様の検討を行うことができた。本研究目的を明らかにするさらなる予備実験として有用と考えられる。以上より、平成25年度の研究実績も、本研究の目的達成に充分貢献するものと評価した。
右心負荷時の致死性不整脈におけるmechanoelectrictransductionの役割を更に明らかにするため、平成26年度は、病的右心室圧負荷を惹起する肺手術術後及び肺動脈狭窄モデルを作成し、右心室負荷時の催不整脈性に関する検討を深める。即ち、平成25年度と同様に、SDラットの左片肺を全摘出し、1日後、4日後、1週間後、2週間後、4週間後(肺手術術後モデル)、及び18G針をラット肺動脈起始部に挿入し、肺動脈と18G針を結紮、直後18G針抜去し、90%以上の肺動脈狭窄作成、3時間後(肺動脈狭窄モデル)に、肺動脈圧を測定し、心臓を摘出、Tyrode液で潅流、Na channel脱分極感受性色素(di 4 ANEPPS)で染色し、心室の脱分極様式・速度・活動電位の不均一性(action potential duration dispersion, APDd)を測定する。また、電気生理学的致死性不整脈誘発法にて心室頻拍・細動の誘発を試みる。更に、平成24 年度に備品と購入した心筋細胞内のCa2+の動態測定装置を用いて、肺手術術後・肺動脈狭窄モデル等の右心室圧負荷モデルにおいて、mechanoelectric transdaction に関与する細胞内Ca2+が増加するか否か検討する。また、電気生理学的誘発法により心室細動が誘発される際に、心筋細胞内のCa2+の増加を伴うか否かを検討し、早期撃発活動(EAD: early after repolarization)が心室細動の誘発の機序となりうるかを検討する。細胞内Ca2+の検討に際しては、心筋活動電位変化を反映するNa channel脱分極感受性色素による測定結果と同時測定を実施して、より効果的に実験目的の達成を図る。
入札行為の結果による契約余剰金として発生したものであるが、研究費として26年度の試薬等消耗品の購入に必要な予算である。平成26年度において、細胞内Ca2+測定に必要な特殊な染色液や試薬の購入のために消耗品の予算として研究費を執行する予定である。
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