研究課題
核内非ヒストン蛋白であるHMGB1は、細胞壊死に伴って細胞外へ放出され、Toll-Like ReceptorやReceptor for Advance Glycation End-productsを介して、NF-κBを活性化させ強力な炎症反応を惹起することが知られている。我々は、大動脈瘤形成過程におけるHMGB1の役割を明らかにするため、塩化カルシウム刺激によるマウス大動脈瘤モデルを用いて検討を行った。生後8週の野生型マウスに対して、ペントバルビタール麻酔下に開腹し、腎動脈から腸骨動脈分岐部に0.5M CaCl2を浸した3X5mmのガーゼを15分間留置し、その後生食で洗浄するAAA群と生食のみの処置を行うSham群(n=5)を作成した。AAA群においては、コントロールIgY抗体投与群(AAA/CON, n=5)とHMGB1中和抗体投与群(10mg/kg/dayを3日毎6週間, AAA/anti-H, n=5)の2群を作成した。6週後に大動脈を摘出し、大動脈瘤径を測定後、hematoxylin-eosin(HE)染色ならびにelastica van Gieson(EVG)染色により、組織学的検討を行った。その結果、AAA/CON群では、Sham群に比べ、有意に腹部大動脈瘤径が拡大し、AAA/anti-H群では、AAA/CON群に比較し有意に腹部大動脈瘤径の縮小を認めた。HE染色では、AAA/CON群において、Sham群に比較し炎症細胞浸潤の増加を認めたが、AAA/anti-H群では、AAA/CON群に比較し炎症細胞浸潤の有意な軽減を認めた。EVG染色では、AAA/CON群で大動脈中膜層の菲薄化とエラスチンの波状構造の破壊が認められるのに対して、AAA/anti-H群では、それが軽減されており、HMGB1中和抗体投与による腹部大動脈瘤形成の抑制効果が示唆された。抗HMGB1抗体ならびに抗Mac-3抗体を用いた免疫組織化学染色では、AAA/anti-H群で、AAA/CON群に比較し、HMGB1発現の低下、Mac-3陽性マクロファージの浸潤軽減が認められた。MMP-2、MMP-9の活性は、AAA/CON群において上昇し、AAA/anti-H群でAAA/CON群に比較し、有意に低下した。
2: おおむね順調に進展している
平成24年度に、大動脈瘤モデルにおいて抗HMGB1抗体による大動脈瘤形成抑制効果を明らかにしたが、平成25年度は、その機序を明らかにするため、大動脈検体の免疫組織染色ならびに細胞外マトリックスプロテアーゼ(MMP)活性の測定を行い、概ね計画通りに進んでいる。
摘出された大動脈瘤検体を用いて、今後、各種サイトカインの発現を検討することにより、HMGB1中和抗体によって得られた大動脈瘤形成抑制効果の機序をより詳細に明らかにする予定である。
平成25年度は、病理標本の免疫組織化学実験を中心に行い、消耗品その他の物品を多く要する動物実験作業などが、相対的に少なかったため。動物実験の他、サイトカイン発現の検討に必要な各種抗体、real time PCRのプローブ購入などに使用予定である。
すべて 2014 2013
すべて 雑誌論文 (5件) (うち査読あり 5件) 学会発表 (7件) (うち招待講演 7件) 図書 (8件)
Diabetes Res Clin Pract
巻: 104 ページ: 257-265
10.1016/j.diabres.2014.02.009
Heart Vessels
巻: 28 ページ: 404-411
10.1007/s00380-012-0270-5
巻: 28 ページ: 559-565
10.1007/s00380-012-0281-2
Circ J
巻: 78 ページ: 71-77
Intern Med
巻: 52 ページ: 2765-2769