研究課題
本研究はBrugada症候群や進行性伝導障害(progressive cardiac conduction defect: PCCD), 特発性心室細動(IVF)などのNaチャネル病に関する遺伝子異常とその病態との関係を解明することを目的とする。現在までに以下のような研究実績をあげている。1)Brugada症候群をはじめとしたNaチャネル病に該当する患者のデータベースの作成。これまでに我々は当施設において約400名の同疾患に該当する患者の中から遺伝子解析を行いNaチャネル異常(SCN5A変異)を同定した患者とそれ以外の患者について臨床背景因子などの違いなど検討を行っている。2)これまでSCN5A異常が見つかった患者についてその家族を詳細に調べたところ複数の家系で発端者と同じSCN5A異常が、Brugada心電図を有する家族とは必ずしも一致しないことが判明した。SCN5A以外の原因(SCN10Aなど)も考えられBrugada症候群が単独の遺伝子異常では説明が難しく、複数の修飾因子が関与していることが示唆された。3)Brugada症候群にてSCN5Aに異常が認められなかった患者についてはゲノムワイド関連解析(GWAS)を行うことにより新たな候補遺伝子の同定に着手している。現在までに約100名の遺伝子型が不明の発端者のGWASを試行した。4)Brugada症候群における電気生理学的な異常は右室流出路の心外膜側の伝導障害が原因とされる。現在、心磁図を用いたBrugada症候群の右室流出路の伝導と突然死リスクについて検討を行っており、さらに3次元心臓モデルを用いたシミュレーションにより催不整脈作用と伝導障害との解剖学的な関係についても考察を行っている。
3: やや遅れている
Brugada症候群に関する遺伝子検査はNa channelのαサブユニットであるSCN5Aが全患者の約20%に同定されている。データベースへの登録患者は順調に増加しており、現時点で200名以上の患者の遺伝子検査を行っている。SCN5A異常の有無による患者背景の違いなどを検討しているが現時点では予後を予測するほどの差は認められていない。現在Brugada症候群の遺伝子として報告されているものは全部で13あるものの、SCN5A以外のものについては極めてまれである。我々も複数の患者でSCN5A以外の候補遺伝子についても網羅的に調べてみたものの異常が見つかったのは数例に留まっている。さらにはある遺伝子に変異が見つかったとしても、それが本当にBrugada型心電図の原因かどうか検討を要する。また例えばSCN5A異常を持っていても女性であるとキャリアでBrugadaが発症することはまずない。このように遺伝子とBrugada型心電図やましてVF発症との関連はまだ未知な部分が多いことが示唆された。では他の遺伝子異常や修飾因子を見つける方法として、ゲノムワイド関連解析(GWAS)やエクソーム解析があり我々も症例を選んで同手法による新たな遺伝的な危険因子の解明に挑んでいる。現時点ではまだ数千以上の候補遺伝子が残っており、今後その絞り込みをするためにもさらに症例の蓄積などの臨床情報が非常に重要となっている。
1)ゲノム解析と新たな修飾遺伝子を解明するためにも、さらに症例を増やすことで少なくとも2桁レベルの候補遺伝子以下に絞り込みを行う。2)既知のSCN5A異常などと臨床データとの関連をさらにすすめる。SCN5Aがリスクとなる患者とそうでない患者、性差や年齢なども考慮して解析を行う。3)遺伝子以外の臨床検査からみた新たな診断方法の確立として、心磁図を用いたリスク評価方法のデータをまとめる。本内容は一部すでに学会等で報告済みであり早急に論文などにて公表する予定である。4)そもそもBrugada型心電図がなぜ危険なのか、またその中で伝導障害がどの程度あるとVF発生リスクが何%増えるのかなどの定量的な評価方法を確立するために、シミュレーションによる不整脈誘発実験なども予定している。
Brugadaの関連遺伝子の解明と新たな遺伝子異常の同定のためにゲノムワイド関連解析やエクソーム解析を行う必要があるためゲノムワイド関連解析およびエクソーム解析を行う
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