研究課題
筋特異的ユビキチンE3ライゲースであるMAFbxの心臓リモデリングにおける役割を検討するために、MAFbx遺伝子欠損マウスとその同腹のワイルドタイプマウスに容量負荷モデルを作成した。容量負荷モデルは、マウス左冠動脈の結紮による心筋梗塞モデルとした。当初は、容量負荷に伴う慢性期の心臓リモデリングに与えるMAFbxの影響を検討する予定であったが、昨年度までの検討で、MAFbx遺伝子欠損マウスで、心筋梗塞後の心破裂が多い可能性が示唆された。そこで、MAFbx遺伝子欠損マウス 60匹、同腹のワイルドマウス 60匹で生存率を検討した。モデル作成後 56日までの検討でMAFbx遺伝子欠損マウス群の生存率は63%、ワイルドマウス群では49%であり、MAFbx遺伝子欠損マウス群で有意に心筋梗塞後の死亡が減少していた。心筋梗塞作成後の死亡は、術後3-7日での心破裂による死亡がワイルドタイプ群より有意に少なかった。心筋梗塞作成後の梗塞サイズは、MAFbx遺伝子欠損マウス群とワイルドタイプ群で差は認められなかった。これらの検討からMAFbx遺伝子欠損が、心筋細胞の虚血耐性には影響は与えないと考えられた。心破裂に心筋細胞のアポトーシスが関連するとの報告がある。心筋梗塞モデル作成3日後の心臓を摘出し、TUNEL染色を行いアポトーシスの評価を行った。ワイルドタイプマウスにおいて、左冠動脈の結紮によりアポトーシス陽性細胞は1%認められた。一方、MAFbx遺伝子欠損マウスではアポトーシス陽性細胞は0.3%で有意に低下を認めた。 また、心筋梗塞作成3日後の心筋組織からmRNAを抽出し、cDNA microarrayにて、網羅的遺伝子解析を行った。心筋梗塞を作成したMAFbx遺伝子欠損マウス群と同腹のワイルドタイプマウス群それぞれ3匹の解析で、MAFbx遺伝子の有無でクラスターが形成されることが確認できた。
2: おおむね順調に進展している
今年度は、MAFbx遺伝子欠損が心筋梗塞に与える影響を明らかにする予定であった。今年度に行った詳細な検討により、MAFbx遺伝子欠損マウス群で心筋梗塞後の心破裂例が有意に少ないことが明らかになった。初期の心筋梗塞サイズは両群で差が認められないことから、虚血に対する耐性がMAFbx遺伝子欠損で獲得されるのではないようである。破裂に至るメカニズムのひとつであるアポトーシスにMAFbx遺伝子欠損が影響を与える可能性を示すことができ、心筋細胞死のメカニズムの解明に近づいていると考える。
マイクロアレイにて、MAFbx遺伝子の有無が、心筋梗塞時に誘導されるmRNA発現パターンに影響を与えることが示されたので、さらに詳細な解析を行い、心破裂に至るような遺伝子の発現が影響を受けていないか解析を行い、有意に変化する遺伝子群に関してはreal time PCR法にて発現を検討する。また、アポトーシスを誘導する転写因子の一つにcJUNがある。MAFbxは筋特異的ユビキチンE3ライゲースであるが、MAFbxが分解する基質タンパクの一つにMPK-1がある。MPK-1の発現が増加するとcJUNの活性を正に制御するJNKのリン酸化が減少することが報告されている。MAFbx遺伝子欠損マウスではMPK-1の発現が上昇している可能性があるので、この経路を用いてMAFbx遺伝子欠損マウスではアポトーシスが減少し、さらに心破裂が減少している可能性が考えられる。心臓でのMPK-1の発現をウエスタン法、免疫組織染色で明らかにし、MAFbxとの関連を明らかにする。結果が、思うようにいかなかった場合は、マイクロアレイの解析を進め、新たに心破裂に関連する遺伝子の抽出をおこない、そのターゲットの解析を進める。また、その成果を国際学会で発表し、広く研究者の意見をえられるようにするとともに、論文での発表を目指す。
効率的な予算執行により端数が生じ、未使用額となった。次年度は、遺伝子欠損マウスがしめる表現型を決定付ける、ターゲットの同定を計画的に進めるため、網羅的遺伝子発現解析、タンパク解析などを行っていくとともに、広く意見を求めるための学会発表、論文投稿のための準備を行う。
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すべて 雑誌論文 (3件) (うち査読あり 3件) 学会発表 (1件)
BMC CARDIOVASCULAR DISORDERS
巻: 13 ページ: 122
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