研究課題
最近申請者および分担研究者である桑原は、種々の心肥大モデル動物やヒトの拡張型心筋症の心臓で受容体活性化型Ca2+チャンネルであるTRPC6 の発現が亢進し、calcineurin-NFAT 経路活性化を引き起こし、病的心筋リモデリングに関与していることを明かとした。またANP/BNPの抗心肥大作用 がTRPC6 の直接のリン酸化による事を明らかとし、TRPC6 阻害が強力な病的心肥大抑制治療となる可能性を示した。本申請研究では、TRPC6 阻害の治療的効果を動物モデルを用いて検討した。1,心不全モデル動物における慢性心不全発症に対するTRPC 阻害薬の効果の解析;拡張型心筋症・突然死モデル動物である、転写抑制因子であるNRSF の優性抑制変異体を心筋特異的に過剰発現させたマウス(dnNRSF-Tg) の心室におけるmRNA発現をRT-PCR法にて評価したところ、calcineurin-NFAT経路の標的であるRCAN1の発現亢進とともにTRPC6の発現も亢進している事を明らかとし、TRPC3選択的阻害薬を投与することにより、左室拡大・壁運動の低下を抑制する結果を得た。また、他の心不全モデルとしてGTP-binding protein αq を強発現した心不全誘発トランスジェニックマウス(Gαq-TG マウス)に対してもTRPC阻害薬を投与したところ、左室機能低下を抑制する結果を認めた。2,肺高血圧モデル動物におけるTRPC 阻害効果の解析;今年度は、前年度のmonocrotaline pyrrole投与による肺高血圧モデルマウスを用いたTRPC阻害薬の検討に引き続き、従来より肺高血圧モデル動物として肺高血圧症に対する薬剤開発に使用されているmonocrotaline投与ラットにおいても同様の検討を行った。マウスの場合と同様に、monocrotaline投与ラットにおいても、TRPC阻害薬がTRPCの発現亢進を抑制し、右室肥大を抑制し、右室でのANP発現の亢進を抑制した。上記結果は、TRPC阻害薬が病的心臓リモデリングを抑制する可能性を示す結果と考える。
2: おおむね順調に進展している
本申請研究では、心血管病の最終的な病態である慢性心不全におけるTRPC6の役割とその詳細な分子機序解明を行い、TRPC6 阻害の治療的効果と臨床的意義を明らかにする事を目指すものである。われわれは複数の心不全モデル動物においてTRPC阻害薬が心機能低下を抑制するという結果を見いだした。また、右心不全により予後不良であることが知られており、最近肺動脈平滑筋細胞におけるTRPC6の意義について注目が集まっている肺高血圧に対しても、肺高血圧も出る動物を用いて、TRPC阻害薬がその右室肥大を抑制する可能性を明らかとした。以上のことより、おおむね順調に進展しているものと考えている。
今後引き続き、TRPC3/6阻害による慢性心不全発症・進展抑制効果の検討を行う。1,心不全モデルマウスを用いた心不全、心室性不整脈、突然死に対するTRPC 阻害効果の検討とTRPC6/3 下流シグナルの解析;前年度に引き続き、慢性心不全・突然死モデルマウスであるdnNRSF-Tg マウスを始めとした種々の心不全モデル動物に対するTRPC 阻害効果の検討を行う。本年度はさらに、慢性心不全においてその死因の約半数をしめるとされる致死性心室性不整脈に対するTRPC阻害効果の検討も行う。2,培養心筋・心線維芽細胞を用いた、TRPC 阻害効果の検討;前年に引き続き、心筋細胞や心線維芽細胞などの培養細胞を用いて、siRNA やTRPC 阻害薬であるBTP2、選択的TRPC3 阻害薬であるPyrazole3 投与によるTRPC6/3 阻害の効果を、NFAT 依存性転写活性、Ca2+流入にて評価する予定である。
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