研究課題/領域番号 |
24591101
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研究種目 |
基盤研究(C)
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研究機関 | 大阪市立大学 |
研究代表者 |
中村 泰浩 大阪市立大学, 医学(系)研究科(研究院), その他 (50457991)
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研究分担者 |
泉 康雄 大阪市立大学, 医学(系)研究科(研究院), 准教授 (10347495)
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研究期間 (年度) |
2012-04-01 – 2015-03-31
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キーワード | 慢性心不全 / 非薬物療法 |
研究概要 |
充分な麻酔下で、野生型ラットに人工挿管して開胸し、左冠動脈を結紮することで心筋梗塞モデルを作製した。心筋梗塞作製4週間後、超音波装置を用いて心機能評価を行い、左室機能が低下していることを確認した。処置開始前の左室駆出率は平均値で45%であった。また、血圧及び心拍数をtail cuff法にて無麻酔下で測定し、梗塞サイズや血圧に差がないように、ランダムに2群に分けた。また、冠動脈結紮以外の手術を同様に行った偽手術群(非梗塞群)も作製した。非梗塞群の左室駆出率は平均値で約62%だった。 1群は麻酔下で乳児用止血バンドを用いて両下肢の一過性虚血(remote ischemic post-conditioning:毎日5分虚血および5分開放を5クール)処置を行い(RIC処置群)、もう1群は毎日、麻酔のみを行った(非処置群)。RIC処置を4週間行った後、RIC処置群および非処置群、非梗塞群について、血圧及び心拍数、心機能評価を行った。採血を行った後、心臓を摘出した。RIC処置群と非処置群との間に体重や血圧・心拍数の差はなかったが、非処置群で左室駆出率が全く改善しなかったのに対して、RIC処置により左室駆出率は有意に改善した。 剖検時に採取した血清を用いて、酸化ストレス度(フリーラジカル解析装置:ダイアクロン社製)を測定した。酸化ストレス度は、非梗塞群に比べて非処置群では約1.6倍に上昇していたが、RIC処置群の酸化ストレス度は非処置群に比べて10%以上低下しており、同処置により慢性心不全で亢進している酸化ストレスを抑制出来ることを初めて明らかにした。 摘出した心臓を用いて組織標本を作製し、心臓の線維化をシリウスレッド染色にて評価した。心筋梗塞周辺領域の間質における線維化率は非処置群では20%を超えていたが、RIC処置により、線維化率は有意に改善された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当初、両下肢の一過性虚血処置にばらつきが生じたため、心機能の改善効果や間質線維化の縮小効果は得られたものの、体重減少が認められた。そこで、一過性虚血処置のばらつきをなくすような工夫を施してモデル作製から実験をやり直した。そのため、当初は計画より少し遅れていたが、平成24年度の実験計画はほぼ遂行でき、確信できるデータを得ることができた。平成25年度計画も予定通り遂行できるものと考えられる。
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今後の研究の推進方策 |
両下肢の一過性虚血処置が心筋梗塞後の心臓リモデリング進展に有効であることが明らかとなった。我々は将来的な臨床応用を視野に入れて研究を行っている。そのためには、有効性の機序を明らかにする必要がある。また、再現性についても評価が必要である。同じモデルを作製して、再現性を確認するとともに、回収した心臓の梗塞部周辺領域の左心室におけるタンパク発現や遺伝子発現を調べる。タンパク発現については、血管新生(内皮一酸化窒素合成酵素; eNOSなど)や炎症(誘導型一酸化窒素合成酵素; iNOSなど)、サイトカイン(腫瘍壊死因子-α; TNF-α)に関する分子を中心に測定し、一過性虚血処置群及び非処置群で比較検討する。 下肢の一過性虚血処置が心保護作用を有することから、血液中に何らかの心保護作用を有した物質が含まれている可能性がある。実際、酸化ストレス度はRIC処置で改善することが明らかとなった。そこで、採取した血液を用いて、血中のサイトカイン濃度や心保護作用に関与することが示唆される分子の発現を調べる。 摘出した心臓標本より、下肢の一過性虚血処置が心臓の間質線維化を抑制出来ることを明らかにしたが、今後、血管密度やマクロファージによる炎症状態についても調べていく。
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次年度の研究費の使用計画 |
研究費は実験動物購入・飼育費、試薬・薬品購入費、抗体購入費等の物品代に重点的に割り当てる。また、本研究に関連する学会への出張・参加費については、当大学の規定に従って厳正に使用する。
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