研究課題/領域番号 |
24591101
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研究機関 | 大阪市立大学 |
研究代表者 |
中村 泰浩 大阪市立大学, 医学(系)研究科(研究院), 非常勤講師 (50457991)
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研究分担者 |
泉 康雄 大阪市立大学, 医学(系)研究科(研究院), 准教授 (10347495)
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キーワード | 慢性心不全 / 非薬物療法 / マイクロRNA |
研究概要 |
ラットの左冠動脈を結紮することで心筋梗塞モデルを作製した。心筋梗塞作製4週間後、梗塞サイズや血圧に差がないように、非処置群と両下肢の一過性虚血処置群(remote ischemic post-conditioning: RIC群)の2群にランダムに分けた。また、冠動脈結紮以外の手術を同様に行った偽手術群(非梗塞群)も作製した。両下肢の一過性虚血処置は、乳児用止血バンドを用いて両下肢の一過性虚血処置(5分虚血および5分開放を5クール)を毎日行い、非処置群は麻酔のみを毎日行った。4週間後、RIC群および非処置群、非梗塞群について、血圧及び心拍数測定、心機能評価を行った。 RIC処置群と非処置群との間に体重や血圧・心拍数の差はなく、心筋梗塞サイズも同等であったが、非処置群に比べてRIC群では左室収縮末期容量は有意に減少し、左室駆出率が有意に改善した。また、シリウス・レッド染色による梗塞境界領域の線維化率はRIC群で有意に抑制された。剖検時に採取した血清中の酸化ストレス度は、非梗塞群に比べて非処置群では約1.6倍に上昇していたが、RIC群の酸化ストレス度は非処置群に比べて有意に低下しており、RIC処置により慢性心不全で亢進している酸化ストレスを抑制出来ることを初めて明らかにした。梗塞境界領域の発現タンパクではHeat shock protein 72やAMPK活性の有意な上昇を認めた。 遠隔部位での一過性の虚血処置により心保護作用を認めたことから、申請者らは、細胞間の情報伝達機構について解析を行った。特に、血清中に存在するエクソソームはRNA発現を制御するマイクロRNAやタンパク質を豊富に含むことが知られていることから、申請者らは、RIC処置による心保護作用に血清エキソソームが関与していると考えた。興味深いことに、非処置群のエクソソーム中では、線維化に関与するRNAを制御しているマイクロRNA発現が低下していたのに対して、RIC群のエクソソーム中ではこのマイクロRNA発現が増加していた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
研究開始当初は、両下肢の一過性虚血処置にばらつきが生じたため、心機能の改善効果や間質線維化の縮小効果は得られたものの、体重減少が認められたため、一過性虚血処置のばらつきをなくすような工夫を施してモデル作製から実験をやり直した。その結果、当初は計画より少し達成度が遅れたが、平成25年度までの実験計画はほぼ遂行でき、確信できるデータを得られた。平成26年度計画も予定通り遂行できるものと考えられる。
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今後の研究の推進方策 |
両下肢の一過性虚血処置が心筋梗塞後慢性期の心臓リモデリング進展抑制に有効であることを明らかにできた。申請者らは、基礎研究にとどまらず、将来的な臨床応用を視野に入れて研究を行っている。そのためには、有効性の機序を明らかにする必要がある。また、再現性についても評価が必要である。同じモデルを作製して、再現性を確認するとともに、回収した心臓の梗塞部周辺領域の左心室におけるタンパク発現や遺伝子発現を引き続き調べる。下肢の一過性虚血処置が心保護作用を有することから、血液中に何らかの心保護作用を有した物質が含まれている可能性がある。中でも、マイクロRNAやタンパク質を含有するエキソソームが細胞間の情報伝達に重要な役割を担っていると考えられることから、エキソソームに含まれる分子の解析を行う。
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次年度の研究費の使用計画 |
支出は全て物品購入費用に用い、当初予定していた旅費には使用しなかったため、その分の予算を次年度に繰り越すことにした。 研究費は引き続き、実験動物購入・飼育費、試薬・薬品購入費、抗体購入費等の物品代に重点的に割り当てる。平成26度は最終年度に当たるため、学会発表や論文作成も行っていく。本研究に関連する学会への出張・参加費については、当大学の規定に従って厳正に使用する。
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