研究課題/領域番号 |
24591103
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研究機関 | 兵庫医療大学 |
研究代表者 |
辻野 健 兵庫医療大学, 薬学部, 教授 (90283887)
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研究分担者 |
内藤 由朗 兵庫医科大学, 医学部, 講師 (10446049)
増山 理 兵庫医科大学, 医学部, 教授 (70273670)
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キーワード | 慢性心不全 / 貧血 / 鉄代謝異常 / 心腎貧血症候群 / 葉酸 |
研究概要 |
平成25年度に予定した実験、すなわち心腎貧血症候群モデルであるDahl食塩感受性高血圧(DS)ラットの貧血の機序を解明するために以下の実験を行った。 1 鉄補充の効果:まず経口で鉄補充を行う実験を行った。経口鉄補充では貧血は全く改善せず、血清鉄の上昇も見られなかった。そこで鉄剤を経静脈的に投与することにした。6週齡からDSラットを以下の3群に分けた。(1) LS群:常食を続行。(2) HS群:6週齢で8%NaCl食を開始。(3) HS+鉄補充群:6週齢で8%NaCl食を開始し、10週齢から含糖酸化鉄注射液0.2ml(鉄4mgに相当)を尾静脈注射により週に1回投与。14週齢において、HS群では貯蔵鉄(ベルリンブルー染色で評価)は脾臓では激減し、肝臓では微増していた。経静脈的に鉄補充を行い、脾臓や肝臓の貯蔵鉄は著増したにもかかわらず、血清鉄の上昇はわずかであり、貧血の改善は全く見られなかった。このことは、DSラットにおいて鉄欠乏は存在するものの、貧血の原因は鉄欠乏性貧血ではなく、むしろ鉄利用障害がその原因と考えられた。さらにDSラットの骨髄を検討したところ、有核細胞数はむしろ増加し、脂肪細胞がほぼ消失していた。このことから、DSラットにおいて骨髄における造血異常が貧血の発症に関与することが示唆された。 2 葉酸補充の効果:最近腎不全ラットでは葉酸(FA)トランスポーターの発現が低下していることが報告されたので、DSラットでも葉酸代謝異常の関与を疑い実験を行った。(1) LS群:常食を続ける。(2) HS群:8%NaCl食を開始する。(3) HS+FA群:7週齢で8%NaCl食を開始し、13週齢で8%NaCl+0.05%葉酸食を開始する。FA補充にて血中FA濃度は2倍以上に増加したが、貧血は全く改善されず、FA不足はDSラットにおける貧血の発症機序に関与していないと考えられた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
予定されていた動物実験の2つのプロトコール、すなわちDSラットの貧血に対する葉酸と鉄補充の効果を検討する2つのプロトコールを遂行できたので、おおむね順調に進展しているといえる。また、DSラットの骨髄ではむしろ有核細胞数が増加していることから、赤芽球系のアポトーシスや、成熟赤血球の半減期の増加の関与が疑われる。レスベラトロールの効果についての新たな検討はできなかったが、極端な増量を行って造血系にわずかな改善効果が得られたとしても、臨床的に応用できる可能性は低い。また、腎機能が改善すれば、それによる間接的な貧血改善効果なのか、骨髄に直接働いて改善させたのかの判別が困難である。それよりも、DSラットの骨髄における造血異常の方がより本質的で有用な検討と考えられるので、そちらに注力したい。また別の研究から、漢方薬十全大補湯がDSラットの貧血に有効であることが分かったので、この漢方薬の効果を通じてDSラットの貧血の原因を追究したい。
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今後の研究の推進方策 |
DSラットを用いて、慢性心不全における貧血の発症機序に赤血球寿命の短縮、骨髄における赤芽球系細胞のアポトーシス、造血幹細胞およびそのニッシェの異常、髄外造血が関与するかどうかを検討する。またそれに対して、貧血に効果があると考えられる漢方薬十全大補湯の投与がどのような影響を及ぼすかを検討する。さらにこのような造血系の異常に対する交感神経系の関与について検討するため、β1受容体遮断薬、β2受容体遮断薬、β3受容体遮断薬を投与し、その効果を検討する。すなわちDSラットを6週齢で次の6群に分ける。1.LS群:常食を続行。2.HS群:6週齢で8%NaCl食を開始。3.HS+十全群:6週齢で8%NaCl食を開始し、10週齢から十全大補湯1.25g/kg/dayを投与する。4.HS+β1群:6週齢で8%NaCl食を開始し、10週齢からβ1受容体遮断薬アテノロールを4週間投与する。5.HS+β2群:6週齢で8%NaCl食を開始し、10週齢からβ2受容体遮断薬ブトキサミンを4週間投与する。6.HS+β3群:6週齢で8%NaCl食を開始し、10週齢からβ3受容体遮断薬SR59230Aを4週間投与する。14週齢で各群10匹ずつ、N-hydroxysuccinimide-biotin (40 mg/kg)を3日連続尾静脈から静脈注射し、赤血球をラベリングする。その後3~4日毎に尾静脈から100μl採血し、antistreptavidin fluorescein isothiocyanate antibodyを用いてラベルされた赤血球をフローサイトメーターでカウントし、赤血球の半減期を求める。また、14週齢で大腿骨から骨髄細胞を採取し、赤芽球系細胞のアポトーシスを評価する。さらに、骨髄における造血幹細胞のニッシェである間葉系幹細胞の異常や、脾臓における髄外造血について検討する。
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