研究課題/領域番号 |
24591114
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研究種目 |
基盤研究(C)
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研究機関 | 神戸大学 |
研究代表者 |
山下 智也 神戸大学, 医学(系)研究科(研究院), 講師 (90437468)
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研究分担者 |
佐々木 直人 神戸大学, 医学(系)研究科(研究院), 助教 (00514746)
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研究期間 (年度) |
2012-04-01 – 2015-03-31
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キーワード | 動脈硬化 / 腸内細菌 / 腸管免疫 |
研究概要 |
本研究の目的は、腸管からの免疫制御による抗動脈硬化免疫療法を開発し、その機序を解明して、将来臨床応用することである。特に、常在腸内細菌叢の種類と腸管免疫反応との関連を明らかにし、プロバイオティックス投与などにより腸内細菌を変化させることで、腸管免疫を修飾し、動脈硬化が予防できるかどうかを明らかにする事を目指す。 「動脈硬化」、「腸管免疫の状態」、「腸内細菌叢の属種」の3者の関連を検討するために、6週齢のアポリポ蛋白E遺伝子欠損マウスに、葉酸、レチノイン酸、プロバイオティックス、抗生物質を投与して、10週間継続した。16週齢で大動脈起始部と大動脈全体の動脈硬化巣面積を評価し、コントロール群と比較して動脈硬化抑制作用の有無を評価した。 腸管免疫修飾作用の報告された葉酸もレチノイン酸も、制御性T細胞誘導効果が認められず、動脈硬化抑制効果も認められなかった。いくつかのプロバイオティックス投与によって、腸内細菌叢の有意な変化は認められず、実験した中には動脈硬化抑制効果を発現するものは認められなかった。抗生物質に関しては、有意に腸内細菌叢に影響を与え、一部に動脈硬化抑制効果も認められた。腸管免疫修飾作用に関しては、現在調査中である。 これらの実験で、プロバイオティックス投与によっては、容易に腸内細菌叢を変化させることは困難であり、抗生物質ではその介入が可能であることが分かった。「腸内細菌叢を変化させるような動脈硬化予防法」の候補物質が、現状では、少ないながら存在することが分かり、これは当初の仮説が正しいことが証明できたということである。腸管免疫修飾との関連を同時に調査して、治療法としての意義を検討する必要性がある。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
「腸内細菌叢を変化させるような動脈硬化予防法」の候補が存在することが分かり、我々の仮説が、正しいことが証明されたということに意義があるし、初年度の目標には到達したと言える。しかし、直接の腸管免疫修飾による動脈硬化治療法に関しては、新規の候補物質の同定には至っていないし、腸内細菌叢に何らかの影響を与えるであろうと考えたプロバイオティックス数種類に関しても、腸内フローラは変化させず、動脈硬化抑制効果も認められなかった。他の菌種の実験をすすめることも必要だが、その投与方法や、単一の介入でない方法も考慮しないと、このまま研究をすすめても目的は達成できない可能性が示唆された。このプロバイオティックスの投与実験は、当初は平成25年度以降に予定した実験を前倒しで施行したもので、一部では予定よりも達成度は高いと言える。「動脈硬化」、「腸管免疫の状態」、「腸内細菌叢の属種」の3者の関連を検討するという重要課題についても、抗生物質の一部で証明できたが、まだ3者の関連が詳細に調査できているわけではない。
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今後の研究の推進方策 |
マウス実験計画は、おおよそ予定通りに遂行できている。しかし、それらの実験結果から考えても、やはりヒトでの研究をすすめる必要性を強く感じており、平成25年度には、患者の“糞便”を用いた、腸内細菌叢の解析を行い、研究計画の一部を前倒しにした形ですすめることにした。臨床研究は、倫理委員会にて認可を得た状態であり、正常人と患者での差異を検討する研究を開始した。人の場合の免疫機能の評価方法に関しては、血液サンプルからの白血球のフローサイトメトリーを使用した解析方法の開発を平成24年度中に終了させており、腸内フローラ解析と同時に免疫機能評価も同時に行う。 マウスを用いた基礎実験も同時に遂行し、初年度内で得た成果を発展させる。さらに、腸管免疫修飾や腸内細菌の影響を容易に評価できるモデルとしてのGerm free(無菌)マウスの樹立を、他の公的研究期間との共同研究ですすめる計画を立てている。平成26年度には、実際の介入研究が可能となる予定である。
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次年度の研究費の使用計画 |
当初の予定とおり、マウスを用いた研究のための施設使用費、分子生物学的解析の試薬や組織学的解析のための消耗品、抗体などに研究費を使用する。さらにヒトのサンプルでのT-RFLP(糞便を用いた腸内細菌叢の解析法)の費用やヒト血液を使用したフローサイトメトリー用の抗体や消耗品の費用に使用する予定である。研究成果の一部を、公表するための学会発表に参加するための費用も計上している
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