研究実績の概要 |
アンジオテンシンII(Ang II)は酸化ストレス(ROS)消去系酵素extracellular superoxide dismutase(ecSOD)活性も亢進させるだけでなく先天免疫に関与するToll-like receptor 4(TLR4)系にも制御され, Ang II存在下で血管再構築に関与する可能性がある.本研究の目的は, Ang II負荷高血圧におけるROSの産生・消去系酵素とTLR4による臓器障害の新たな進展調節機序を解明することである.対照マウス,TLR4欠損マウスともに血圧に差はなく,Ang IIとノルエピネフリン(NE)負荷でともに同等に血圧が上昇したが, Ang II負荷ではNE負荷と比べて対照マウスで大動脈壁に存在するecSODの活性上昇が抑制され,ROSがより増加し,血管再構築も進行した.一方,Ang IIはAT1受容体を介してROS産生酵素であるNADPH oxidaseを活性化して血管壁や心筋内でROSを産生し,さらに単球/マクロファージの組織内への浸潤とmacrophage chemoattractant protein-1を増加させ炎症を惹起し,心臓では心筋内線維化を促進して左室収縮能低下を惹起し,大動脈壁では線維化促進と血管再構築を惹起したが,TLR4欠損マウスではこれらAng II負荷によるNADPH oxidase活性上昇と組織内ROSの増加だけでなく,血管再構築や心機能低下も対照マウスと比べて完全に抑制されていた.同様の所見は,血圧を低下させない程度の低用量Ang II受容体拮抗薬を投与した対照マウスでも観察されたが,TLR4欠損マウスでは全く影響がなかった. さらにAng II負荷によりROS消去酵素であるecSOD活性がTLR4欠損マウスでは対照マウスよりもさらに有意に増加していたことから, Ang IIはNADPH oxidaseを活性化させ,ecSODを抑制してROSを増加させ, 血圧に依存することなく臓器障害を引き起こす臓器障害惹起規定因子である可能性がある.
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