肺動脈性高血圧症の進展には、以前からRho/ROCKシグナルが重要な役割を果たしているとの報告があり、実臨床においてもROCK阻害薬が肺高血圧症の治療に使用されている。2008年に単離同定した筋特異的カベオラ関連タンパクMURC(Cavin-4)の心筋における役割を解析した結果、MURCが心筋細胞内のRhoA/ROCKシグナル伝達に関わっていることを明らかにした。MURCは血管平滑筋細胞においても発現が認められるため、本研究の目的は肺高血圧における血管平滑筋細胞内でのMURCの機能的役割を明らかにすることとした。 平成24年度には、MURCは血管平滑筋細胞膜のカベオラに局在するもののその形成自体には必須ではないこと、同じカベオラ関連タンパクの1つで肺高血圧症の原因遺伝子の1つとされているCaveolin-1とMURCは結合していること、ラット大動脈血管平滑筋細胞の増殖能・遊走能をMURCは正に制御していることをそれぞれ明らかにした。 平成25年度は全身MURCノックアウトマウスを作出し1%低酸素負荷を4週間行うことにより肺高血圧モデルを作成し対照マウスと比較したところ、MURCノックアウトマウスは有意に肺高血圧が抑制されていた。末梢の肺動脈組織の検討で肺血管平滑筋細胞の増殖が抑制されていることも確認できた。肺組織におけるROCK活性化もMURCノックアウトマウスでは有意に抑制されていることを突き止め、MURCは肺血管平滑筋細胞でのRhoA/ROCKシグナルに関与している可能性が示された。Caveolin-1は活性型Gα13と結合することによりRhoA活性を負に制御しているが、大動脈血管平滑筋細胞を用いた実験で、MURCは競合的にCaveolin-1とGα13の結合を阻害しRhoA活性を上昇させることを明らかにした。 平成26年度は、ヒト肺血管平滑筋細胞でも上記の結果が同じであることを確認し論文として投稿中である。
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