研究課題
母体肥満症における内臓白色脂肪のエピジェネティックな遺伝子発現修飾は、出生児の成人期における肥満やインスリン抵抗性と密接に関連することが知られている。一方、血管周囲脂肪(perivascular adipose tissue: PAT)と動脈硬化形成との関連性が近年注目されているが、母体肥満症におけるエピジェネティックな遺伝子発現修飾および動脈硬化形成への影響については報告がない。肥満apoE 欠損マウスより産まれたマウス仔(肥満マウス仔)の胸部大動脈PATに注目し、胎児プログラミングによるPATの表現型変化と動脈硬化進展機序の関連を明らかにし、心血管病予防の新たな治療標的に発展させることが本研究の目的である。高脂肪食を与えた肥満apoE欠損マウスより産まれた8週齢のマウス(肥満マウス仔)に高コレステロール食を12週間投与し、大動脈における動脈硬化形成を検討したところ、プラーク領域はコントロールマウス仔に比べて著明に増大していた(22% vs.11%、P<0.01)。さらに、胸部大動脈PATにおけるMCP-1、単球・マクロファージマーカー遺伝子(F4/80、CD68)の発現レベルおよびMAC-2陽性細胞の集積は肥満マウス仔において有意に亢進していた。肥満マウス仔PATにおける形質変化が動脈硬化形成に直接的に関与していることを確認するため、高コレステロール食負荷前の肥満マウス仔とコントロールマウス仔よりそれぞれ胸部大動脈PATを採取し、レシピエントapoE欠損マウスの腹部大動脈周囲に移植した。移植3か月後の動脈硬化形成を比較したところ、肥満マウス仔PAT移植群ではコントロール群に比べて優位に動脈硬化形成が進展し、マクロファージの浸潤、炎症性サイトカインの発現が亢進していた。
2: おおむね順調に進展している
肥満母体由来マウス仔(肥満マウス仔)の作製および高コレステロール食負荷後における動脈硬化形成の解析では、予想通りの結果が得られた。また、移植モデルを用いた解析においても、肥満マウス仔移植群において動脈硬化の優位な進展が認められた。肥満マウス仔の胸部大動脈PATには単球・マクロファージの優位な集積増加が認められることから、単球・マクロファージの集積や分化・増殖に深く関与しているM-CSFに着目した。実際、肥満マウス仔の胸部大動脈PATでは、高コレステロール食負荷前からM-CSFのmRNAレベルおよびタンパクレベルにおける発現がコントロール群に比べて著明に増加していた。
肥満マウス仔PATにおけるヒストン修飾の解析を今後進めていく予定である。クロマチン免疫沈降法を用いてM-CSFのプロモーター領域におけるヒストン修飾を解析する。予備実験ではあるが、肥満マウス仔PATではM-CSFプロモーター領域におけるH3K27のトリメチル化が優位に低下していた。今後は、胸部大動脈PATからの脂肪細胞培養系を用いて、脂肪分化におけるH3K27のトリメチル化およびM-CSFの発現調節機構について解析を進める予定である。
すべて 2013 その他
すべて 雑誌論文 (1件) (うち査読あり 1件) 学会発表 (5件)
Am J Physiol Heart Circ Physiol.
巻: 305 ページ: 667-675
10.1152/ajpheart.00053.2013