研究実績の概要 |
最終年度に実施した研究の成果:H27年度はシロリムス投与によって生じたラット肺内の炎症が、いわゆる薬剤性肺障害としての間質性肺炎を反映しているのかどうかについて検討した。ラット肺および血清のKL-6をELISA法によって測定した。結果はシロリムス投与ラット肺、血清においてKL-6の上昇は認めず、通常ヒトでみられるシロリムス投与に伴う薬剤性肺障害とは発症機序が異なると考えられた。
研究期間全体を通じて実施した研究の成果:本研究は、mTOR阻害薬のもつ、細胞増殖抑制効果がラット肺に気腫様病変を発症するという仮説の下に行った。mTOR阻害薬としてシロリムスを用いた。気腫様病変については平均肺胞径とDestructive Index(肺胞の破壊の程度の指標)を用いた。細胞増殖抑制効果については、phospho-Akt, VEGF, active Caspase-3などを用いた。
組織学的検討において、シロリムス投与されたラット肺は気腔の拡大を認めていた。シロリムス投与ラット肺組織ではmTOR活性の指標であるphospho S6Kの有意な活性低下を認めた。同ラット肺組織においてVEGF, phosphor Akt発現の低下、STAT1, active Caspase-3の発現亢進を認め、mTORの阻害が細胞増殖を抑制し、肺胞構成細胞のアポトーシスによって気腔の拡大を認めたと推測された。一方本薬投与ラット肺では、肺内小血管周囲に円形細胞の浸潤がみられた。免疫組織化学的検討により、この円形細胞はCD8陽性T細胞であることが判った。このことはシロリムス長期投与例においてCD8陽性T細胞の増殖がみられるという過去の報告と一致していた。尚、本薬投与のラット肺組織中のgranzyme B濃度を測定したところ、コントロール肺よりも有意に高値であり、CD8陽性T細胞による炎症が存在すると考えられた。
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