研究課題
慢性閉塞性肺疾患(COPD)は、世界的に増加しつつある疾患であり、本疾患による社会的負荷が増大傾向にある。本疾患の進行には肺気腫の進行が重要な役割を占めている。この研究の最終目的は、肺気腫の進行を止める手段の開発である。我々は以前に、COPD患者では低酸素暴露下で、HIF-1αとHDAC7の核内移行が対照群と比較して低下していることを発表した。この所見と肺気腫の進行との関連を解明した。肺胞上皮様細胞株(A549細胞)を酸素 1%, 二酸化炭素 5%下で培養した。低酸素暴露により、HIF-1αとHDAC7の両蛋白とも核内へ移行することを確認した(mRNA量は変化なし)。また、低酸素暴露により、NF-kB p65 DNA結合活性の増加とIL-8、MMP-9の産生増加とがみられた。これらはいずれもHDAC7のノックダウン(KD)の影響を受けなかったが、IKK2阻害薬で抑制がみられた。これにより、hypoxia→炎症性サイトカイン産生の経路は、NF-kBを介しており、HDAC7非依存性であると考えられた。低酸素暴露によるHIF-1αの核内移行とVEGF産生増加は、HDAC7 KDにより抑制がみられた。以上のことから、HDAC7の核内移行が低下している患者においては、低酸素への適応および肺微小血管系の増殖を図る経路(hypoxia→HIF-1α経路)は抑制されているが、低酸素による炎症および蛋白分解促進の経路(hypoxia→炎症性サイトカイン産生)は保たれており、このバランスのくずれが、肺気腫の進行につながっている可能性を考えた。この成果は、第54回日本呼吸器学会学術講演会で発表した。さらには、実験の経過中に、HDAC7に加えて、あるAging関連蛋白がHIF-1αの核内移行に大きな役割を果たしている可能性があること発見した。現在、上記の両所見を臨床検体で確認中である。
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