慢性閉塞性肺疾患(COPD)の発症機序を明らかにするために、DNA障害をキーワードとして研究を展開した。第1に、COPD患者では肺胞上皮にDNA障害が生じているために細胞老化、アポトーシス、慢性炎症(senescence-associated secretory phenotype: SASP)、発癌が引き起こされることを示し、COPDの発症機序と炎症の慢性化を説明する"The danger signal plus DNA damage 2-hit hypothesis for chronic inflammation in COPD"仮説を提唱した(Eur Respir J 2013)。第2に、タバコ煙を曝露したマウスでは肺のみならず心筋と脂肪組織に酸化的DNA障害が生じることを明らかにした(Exp Toxicol Pathol 2014)。第3に、BrdUを反復投与して慢性的DNA障害を誘導したマウスでは、気道や肺に慢性炎症が生じることを明らかにした(Exp Toxicol Pathol in press、最終年度の成果)。第4に、ナフタレンを反復投与したマウスでは、慢性的なクララ細胞障害により気道の線維化が生じることを明らかにした(Exp Toxicol Pathol 2014)。第5に、ブレオマイシン肺線維症マウスでは肺胞上皮のDNA障害によりSASPが誘導されて慢性炎症が生じることを明らかにした(Exp Toxicol Pathol 2013)。第6に、これらの研究結果を元にして進化医学的な立場からCOPDの発症機序を考察し、"An evolutionary medicine approach to COPD" 説を提唱した(Respiration 2015、最終年度の成果)。以上の研究成果から、COPDの発症機序におけるDNA障害の役割が明らかにされた。
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