研究課題
基盤研究(C)
マウス肺癌培養細胞の肺転移モデルを用いて、プロスタサイクリンアナログの腫瘍血管に対する効果を検討した。マウス肺転移モデルは、ルイス肺癌細胞の尾静脈注射により作成した。準備的な実験として、培養ルイス肺癌細胞の培養液中にプロスタサイクリンアナログを添加しても、培養肺癌細胞の増殖には影響を与えなかった。マウスの肺転移モデルマウスにおいて、対象マウスにプロスタサイクリンアナログを皮下に持続的に投与すると、肺転移病巣数は有意に減少した。このことは、プロスタサイクリンアナログの投与は、肺癌細胞の増殖に影響を与えなかったことから、肺転移病巣での間質環境の変化が影響している可能性を示唆した。この結果により、プロスタサイクリンアナログを投与したマウスと、投与しないマウスでの新生腫瘍血管の形態と機能を検討した。その結果、プロスタサイクリンアナログを投与したマウスの新生腫瘍血管は、投与しないマウスの腫瘍新生血管よりも成熟していることを見いだした。このプロスタサイクリンアナログによる腫瘍血管の成熟は、血管内皮に結合するペリサイトの数によって規定されていることを見いだした。すなわち、マウス肺癌肺転移モデルにおいて、プロスタサイクリンアナログの経口投与は、ペリサイトの機能を向上することで、腫瘍血管の成熟をうながし、肺転移を抑制していると考えられた。追加実験によって、この腫瘍血管の成熟が腫瘍内の低酸素状態を改善している可能性を示した。本研究の成果は、研究グループの大学院生の医学博士学位論文に結びつき、2013年にアメリカ癌学会で発表した。
1: 当初の計画以上に進展している
計画した目標を達成している他、新たな研究課題を見いだすことができた。さらに、研究に用いたプロスタサイクリンアナログが腫瘍血管の成熟を通じて肺転移を抑制したことから、同様の機序をもつ化合物が抗癌剤としてしようできるポテンシャルを持つことが示されたことから、新しい観点からの抗癌剤の開発に結びつく結果がえられた。新薬の開発にひとつの方向性を示すことができたことが、当初の計画以上に進展していると考えた理由である。
本研究に用いたプロスタサイクリンアナログは、肺癌以外の疾患ですでに臨床に使用されている薬剤である。今後は、腫瘍血管の成熟化を通じて、癌転移を抑制するのに最適な薬剤と、その投与法を検討していく必要がある。今後は、この方向に強く研究を推進してく予定である。
プロスタサイクリンアナログが骨髄由来の腫瘍血管前駆細胞に作用して血管の成熟に関与していることを確認する研究を展開するために、プロスタサイクリン受容体欠損マウスの骨髄を、レシピエントマウスに移植した実験動物を作成して、このプロスタサイクリン受容体欠損骨髄をもったマウスでプロスタサイクリンアナログが同様の作用を示すか検討を加えたい。さらに、他のプロスタサイクリンアナログ、他の腫瘍転移モデルを用いて、今回の研究で見いだした結果の普遍性を検証したい.
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