研究概要 |
COPDなどの難治性の慢性気道炎症疾患における気道感染はしばしば気道過分泌を招き、病態の増悪に深く関与することが知られている。気道分泌は気道に分布する迷走神経末端からのアセチルコリンなどの神経伝達物質によって調節されていると考えられている。しかし、ウイルス感染時に比して細菌感染時により強い気道分泌増強が認められる調節機序など詳細には解明されていない点も多い。本研究では、Toll様受容体 (TLR)システムを利用した抗原依存的な気道分泌調節機序が存在しているとの仮説のもとに研究を行っている。最終的にはそれぞれの認識抗原によって惹起される分泌調節の臨床的意義を完全解明し、気道分泌異常が深く関与する難治性慢性気道炎症疾患に対する新規治療戦略を確立することを目標としている。今年度も昨年に引き続き、TLR2, 3, 5, 7, 9の候補サブタイプによる網羅的な機能解析を行った。慢性気道感染の増悪には、グラム陽性菌、グラム陰性菌、ウイルス感染など多くの病原菌が関与するため、今回はTLR 2,3,4,5のリガンドとしてそれぞれPGN, LTA, Poly(I:C), LPS, Flagellinを用いた。ヒトと類似した性質をもつブタ気管粘膜下腺細胞を単離し、パッチクランプ法を用いて水分分泌の程度をイオンチャンネルから流出する電荷量によって評価した。これらの中でLPSとFlagellinがそれぞれ気道分泌腺表面に発現するTLR4やTLR 5を刺激し、細胞内カルシウムの更なる上昇を伴わない機序で分泌増強因子として機能することが明らかになった。気道過分泌を特徴とする慢性気道炎症疾患においてはしばしば緑膿菌が気道表面へ定着しているが、LPSとFlagellinを共に有することが気道過分泌と関連している可能性が考えられた。以上の研究成果は、米国生理学学会雑誌に投稿し掲載された。
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