研究課題/領域番号 |
24591151
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研究種目 |
基盤研究(C)
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研究機関 | 山形大学 |
研究代表者 |
黒谷 玲子 山形大学, 理工学研究科, 助教 (00453043)
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研究分担者 |
阿部 宏之 山形大学, 理工学研究科, 教授 (10375199)
柴田 陽光 山形大学, 医学部, 講師 (60333978)
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研究期間 (年度) |
2012-04-01 – 2015-03-31
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キーワード | SCGB3A2 / 肺線維症 / アポトーシス / ブレオマイシン |
研究概要 |
新規生理活性物質SCGB3A2は、肺炎や難治性の肺線維症の改善効果が示めされている。肺線維症は、細胞へのダメージ、炎症、コラーゲン沈着を経て重症化する。そこで、本研究では、SCGB3A2の肺線維症治療薬としての有効性を検証するために、進行した肺線維症に対するSCGB3A2の治療効果を解析した。具体的には、(1)培養肺細胞に対するSCGB3A2のアポトーシス抑制効果とそのメカニズムの解析と、(2)Scgb3a2遺伝子改変マウスを利用したアポトーシス、炎症、線維化に対するSCGB3A2の改善効果を検証することとした。 培養細胞系としてマウス肺線維症細胞株MLg細胞を肺線維症誘発物質であるブレオマイシン(BLM)で刺激した。この時、リコンビナントSCGB3A2(rSCGB3A2)の存在・非存在下でのアポトーシスの検討を行った。この結果、BLMにより誘導されたアポトーシスは、rSCGB3A2で有意に抑制された。 一方、Scgb3a2遺伝子変異マウスを用いた検討では、先行実験として、肺で高発現するScgb3a2トランスジェニック(TG)マウスと野生型マウスにBLMを投与し、その後の肺線維症の発症について病理学的に検討した。この結果、BLM投与による肺線維症の程度は野生型に比べScgb3a2TGマウス肺で軽度である傾向が見られた。 本年度の研究結果から、SCGB3A2は肺線維症の治療薬として有効である可能性が強く示唆された。特に動物実験における結果は非常に興味深い結果であったため、次年度はScgb3a2KOマウスも合わせ、BLM誘導性肺線維症におけるSCGB3A2の治療効果の検討を詳細に行っていく。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
平成24年度の計画として、(1) 培養肺細胞を用いたSCGB3A2のアポトーシス抑制効果の検討、(2) 肺器官培養システムを用いたSCGB3A2の肺組織構築促進効果の検討、(3) 肺線維症モデルマウスを用いたSCGB3A2の肺線維症抑制効果の検討を計画した。 SCGB3A2のアポトーシスの抑制効果(1)について、マウス肺繊維芽細胞株(MLg)をBLMで刺激し、アポトーシスを誘導させた時、rSCGB3A2添加によってアポトーシス陽性細胞数が有意に減少することをTUNEL法にて明らかにした。しかし、そのほかの方法での検討や、アポトーシス抑制経路の決定は次年度に行うこととなった。 肺器官培養システムを用いたSCGB3A2の肺組織構築促進効果の検討(2)では、器官培養条件の検討が完了したため、次年度にSCGB3A2の効果を検討できる環境が整った。 肺線維症モデルマウスを用いたSCGB3A2の肺線維症抑制効果の検討(3)については、平成24年度にScgb3a2遺伝子改変マウス(KO,TG)を米国より山形大学医学部附属動物飼育施設に移動し、SPF化および繁殖を開始できた。野生型およびTGの余剰マウスを用いて、先行実験を行った。それぞれのマウスにBLMを気管投与し、1週間後、および2週間後の肺組織の状態を組織学的に解析したところ、TGマウス肺の方が、野生型にくらべ線維症の進行が遅れる傾向が認められた。肺線維症におけるSCGB3A2の改善効果が期待できるものと判断できる結果であった。
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今後の研究の推進方策 |
平成25年度の計画として、(1)培養肺細胞を用いたSCGB3A2のアポトーシス抑制効果の検討では、特に生物学的解析として、TUNEL法の他、Annexin V結合試験及びチトクロームC(CytC)局在解析により、SCGB3A2存在下・非存在下でBLM刺激したマウス肺線維芽細胞のアポトーシス抑制効果を解析する。これに加え、活性酸素種(ROS)抑制遺伝子類の解析として、BLM刺激によって放出されるROSを解析し、SCGB3A2のアポトーシス抑制効果を分子生物学的に検証する。SCGB3A2刺激によりROS抑制因子、抗酸化遺伝子(グルタチオンペルオキシダーゼ、チオレドキシン、SOD)発現が亢進した試料について、ROS抑制因子と抗酸化遺伝子の発現を定量RT-PCRを用いて解析する。 さらに、(2) 肺器官培養システムを用いたSCGB3A2の肺組織構築促進効果の検討として、マウス胚の肺器官培養系を用いて、肺組織構築に対するSCGB3A2の効果を調べる。培養液にBLMを添加し、器官培養系において組織レベルでの肺線維症モデルを構築し、最終的に、器官培養系でのSCGB3A2のアポトーシス抑制効果の解析行う。 動物実験として、(3)肺線維症モデルマウスを用いたSCGB3A2の肺線維症抑制効果の検討を行う。現在繁殖している野生型(WT)と肺上皮細胞特異的にScgb3a2を高発現させたScgb3a2 TGマウスおよびScgb3a2 KOマウスに対し、BLM投与により肺線維症を誘導し、BLMを投与後、1-4週間目にSCGB3A2の効果を調べる。具体的には、①生理機能検査、②気管支肺胞洗浄液(BALF)から回収された炎症細胞および肺胞マクロファージの解析、③病理学的解析肺上皮細胞、④間質系細胞、肺胞マクロファージのアポトーシスの程度の検討、⑤酸化ストレスの種類と抑制経路の検討、を計画している。
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次年度の研究費の使用計画 |
1)消耗品費(384,737円):アポトーシス検出用キット(TUNEL、Annexin V結合試験など)、抗体、培養用試薬など(培地、血清、酵素など) 2)動物関係費(300,000円):維持費(動物センター管理費用)、餌・床代、マウス購入費 3)旅費(450,000円):日本動物学会(9月、岡山)、日本分子生物学会(12月、神戸)、日本生理学会(3月、鹿児島) 4)謝金(50,000円):実験補助に対する謝金 5)その他(30,000円):英文校正費用など
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