研究課題
新規生理活性物質セクレトグロビン(SCGB)3A2は、肺炎や肺線維症を改善することが明らかになっている。肺線維症は、細胞のダメージ、炎症、コラーゲン沈着を経て重症化する。そこで、本年度は、SCGB3A2の肺線維症治療薬としての有効性を検証するために、特にScgb3a2遺伝子欠損マウス(Scgb3a2 KO)と野生型マウス(WT)に対し、ブレオマイシン(BLM)で肺線維症を誘導させた時の呼吸機能評価と病理解析を行った。BLM投与後、3週間の体重の変動を記録した。BLM投与後3週間後に呼吸機能評価として、トレッドミルによる走行実験を行った。この結果、BLM投与によってマウスの体重は、実験開始時に比べWTマウスで約8%減少し、Scgb3a2 KOマウスで約25%減少した。対照として行ったWTとScgb3a2 KOマウスへのPBS投与群では、両者の体重は実験開始時より約9%増加した。一方、トレッドミルによる走行実験ではWTマウスのPBS投与群では、走行距離は1065mであったのに対し、BLM投与群では730mに減少した。これに対し、KOマウスの場合、PBS投与群では653mであり、BLM投与群では432mに減少であった。さらに、走行実験後の肺組織の病理解析を行った。マッソン・トリクローム染色によって、WTマウス、KOマウスともにBLM投与によって線維化領域は広範囲に認められ、KOマウス肺の線維化領域の範囲の方が増加することが明らかになった。本年度の研究により、SCGB3A2は肺線維症の治療薬として有効性を示す新たな結果が得られた。この結果を受け、次年度はWTおよびScgb3a2 KOマウスの呼吸機能評価として、コンプライアンス測定と肺組織におけるコラーゲン遺伝子発現の定量化を行い、BLM誘導性肺線維症におけるSCGB3A2の治療効果の検討を継続する。
2: おおむね順調に進展している
平成25年度以降の計画は、SCGB3A2のアポトーシス抑制効果を細胞レベル、組織レベル及び器官レベルで解析し、SCGB3A2の肺線維症改善効果を科学的に検証することであった。そこで、特に野生型(WT)およびScgb3a2欠損(KO)マウスに対し、ブレオマイシン(BLM)により肺線維症を誘導させた時の肺線維症におけるSCGB3A2の重要性の検討を計画した。BLM投与3週間後のマウスの体重減少はScgb3a2 KOマウスで最も顕著であった。また、走行距離もScgb3a2 KOマウスのBLM投与群で最も短い結果であった。このことから、Scgb3a2が呼吸機能に重要な役割を持つ可能性が示唆されたが、体重減少が走行距離に影響をしている可能性は否定できない。しかしながら、WTおよびScgb3a2 KOマウスにPBSを投与した場合、体重は共に約9%増加したのに対し、Scgb3a2 KOマウスの走行距離はWTに比べて減少していることから、SCGB3A2が呼吸機能の維持に重要であることが示唆された。また、走行実験後の肺組織の病理解析を行った結果、マッソン・トリクローム染色によって、WTマウス、Scgb3a2 KOマウスともにBLM投与によって線維化領域は広範囲に認められ、特に、Scgb3a2 KOマウス肺組織での線維化の範囲が増加することが初めて明らかになった。本年度は、培養系の解析が進まなかったが、Scgb3a2 KOマウスを用いたBLM誘導性肺線維症モデルの構築と呼吸機能解析としてトレッドミルによる走行実験と病理解析が進み、SCGB3A2の肺線維症における有効性を新たに提示できたことからおおむね順調に進展したと判断した。
平成26年度の計画として、平成25年度に十分に行えなかった「培養肺細胞を用いたSCGB3A2のアポトーシス抑制効果の検討」の生物学的解析および「肺器官培養システムを用いたSCGB3A2の肺組織構築促進効果の検討」を進める。具体的には、アポトーシスの生物学的解析では、TUNEL法の他、Annexin V結合試験及びチトクロームC(CytC)局在解析により、SCGB3A2存在下・非存在下でBLM刺激したマウス肺線維芽細胞のアポトーシス抑制効果を解析する。器官培養システムを用いた検討では、培養液にBLMを添加し、器官培養系において組織レベルでの肺線維症モデルを構築し、最終的に、器官培養系でのSCGB3A2のアポトーシス抑制効果を検討する。この肺器官培養システムを用いたSCGB3A2の肺組織構築促進効果の検討によって、肺組織構築に対するSCGB3A2の効果が明らかになる。さらに、平成25年度に行った「肺線維症モデルマウスを用いたSCGB3A2の肺線維症抑制効果の検討」を継続する。WTとScgb3a2 KOマウスに対し、BLM投与により肺線維症を誘導し;1)生理機能検査としてコンプライアンス測定、トレッドミルによる走行実験を継続する。2)気管支肺胞洗浄液(BALF)中の炎症細胞および肺胞マクロファージ数を計測する。3)TUNEL法によるマウス肺組織のアポトーシスを検出し、間質系細胞、肺胞マクロファージのアポトーシスの程度を検討する。
平成25年度の研究計画は、おおむね順調に進んだものの、トレッドミルの実験は、経験がなかったため科学論文を参考に新たに条件を決定する必要があった。参考文献にある条件(Pulm Pharmacol Ther. 2014 27(2):144-9.)では、C57BL/6n系マウスを用いたエラスターゼによる肺気腫モデルマウスに対し、トレッドミル(LE 8700 Panlab, Barcelona, Spain)による走行実験を行っている。本実験ではC57BL/6n系マウスを実験に使用したため、マウスの遺伝的背景は同じと考えられたが、トレッドミルの機種と呼吸器疾患モデルが異なることから走行条件を最適化したために時間を要した。また、研究代表者である黒谷が第二子を妊娠、平成25年11月に出産したため研究を中断せざるを得なかった。そのため、年度内の予算および計画を行えない部分があった。平成26年度では、「培養肺細胞を用いたSCGB3A2のアポトーシス抑制効果の検討」と「肺器官培養システムを用いたSCGB3A2の肺組織構築促進効果の検討」および「肺線維症モデルマウスを用いたSCGB3A2の肺線維症抑制効果の検討」を継続する。WTとScgb3a2 KOマウスに対し、BLM投与により肺線維症を誘導し、1)生理機能検査を行う、2)BALF中の炎症細胞および肺胞マクロファージ数を計測する、3)TUNEL法による肺組織の間質系細胞と肺胞マクロファージのアポトーシスの程度を検討する。以上に対して必要となる物品費が主な支出項目になるが、現在、線維芽細胞株を用いた「培養肺細胞を用いたSCGB3A2のアポトーシス抑制効果の検討」に関する論文が審査中であるため、論文の印刷代、研究成果に対する学会発表旅費などの項目に対して予算を使用する計画である。
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