研究課題/領域番号 |
24591154
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研究種目 |
基盤研究(C)
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
山口 泰弘 東京大学, 医学部附属病院, 講師 (60376473)
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研究分担者 |
幸山 正 帝京大学, 医学部, 准教授 (00302703)
山本 寛 東京大学, 医学部附属病院, 講師 (10361487)
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研究期間 (年度) |
2012-04-01 – 2015-03-31
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キーワード | 抗菌ペプチド |
研究概要 |
Defensinは、特異的なシステイン配列を持つ抗菌ペプチドであり、自然免疫のエフェクター因子として機能している。ARDSやCOPDのような炎症性肺疾患では、defensin 濃度の顕著な上昇がみられる。我々は、培養細胞にdefensinを投与したところ、β-defensinのひとつであるhuman β-defensin-3や、そのマウスホモローグであるmouse β-defensin-14(mBD-14)の投与にて、顕著な細胞傷害性が認められた。さらに、エンドトキシンを気管内投与したARDSモデルを作製し、24時間後のBALFを解析したところ、mBD-14遺伝子欠損マウスでは、野生型と比較し、BALF中の細胞数の増加は有意に抑制されていた(p<0.01)。ただし、エンドトキシンの気管内投与によるmouse β-defensin-14の発現上昇は、RT-PCR で確認することができなかった。一方、ATP受容体阻害薬であるスラミンをマウス腹腔内投与後に、エンドトキシンを気管内投与してARDSモデルを作製すると、スラミンの非投与群と比較して、スラミン投与群で、BALF中の細胞数の増加は有意に抑制されていた(p<0.01)。そのほか、肺特異的vitamin D 受容体過剰発現TGマウスを作製し、肺組織の各種タンパクをRT-PCRで評価したところ、TGマウスはWTマウスと比較し、MIP-1α(p= 0.006)、IP10(p= 0.022)、 MCP-1(p=0.008)、 MIP-2(p= 0.032)、 MMP1(p= 0.031)、MMP12(p=0.006)、TIMP-1(p= 0.016)の発現が低かった。defensin やATPが急性肺損傷の増悪に寄与し、肺でのvitamin Dのシグナルはこれらの炎症に保護的に働く可能性が示唆された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
計画にしたがって、mouse β-defensin-14(mBD-14)遺伝子欠損マウスを用いた急性肺損傷モデル、急性肺損傷モデルにおける P2X 受容体阻害薬の影響、急性肺損傷モデルでの defesin 発現量の評価について、計画とおりに評価することができた。特に前2者については、予想通り、defensin やATPが急性肺損傷の増悪に寄与することを支持する結果が、複数回の実験により確認された。急性肺損傷モデルでの defesin 発現量の評価については、今回主として研究しているmBD-14について、炎症下での発現の上昇が確認できなかったが、定常的に発現しているdefensinの関与をみることは意義のあることであり、研究を継続している。そのほか、mBD-14 遺伝子欠損マウスを用いた肺気腫モデルの評価については、遂行できなかったが、当初より、一部の研究を平成25年度に継続する予定であったため、おおきな遅れではない。また、当初、平成25年度に予定していた盲腸結紮穿刺による敗血症性腹膜炎モデルの作製準備にとりかかることができた。一方、肺特異的vitamin D 受容体過剰発現TGマウスをえることができ、vitamin D 受容体のシグナルが急性肺損傷に保護的に作用する知見をえることができたことは、当初の計画以上の成果であった。
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今後の研究の推進方策 |
平成24年度の計画のなかで遂行できていないmBD-14 遺伝子欠損マウスを用いた肺気腫モデルの作製の遂行を考えてる。mBD-14 遺伝子欠損マウスの急性肺損傷モデルにおける各種サイトカイン濃度の評価も不十分であるため追加を検討している。そのほか、敗血症性腹膜炎モデルは、盲腸先端の約 5 mm を結紮し, 23G 針を貫通させて作成し、生存率を mBD-14 遺伝子欠損マウスと野生型同腹仔で比較する研究を、すでに開始しているが、継続の予定である。そのほか、敗血症性腹膜炎モデルにおける、BAL中のサイトカインや ATP 濃度の動態を比較検討する。加えて、過剰量の mBD-14 ペプチドを気管内投与することによる肺の変化を観察する。まず、健常マウスに過剰量の mBD-14 ペプチドを気管内投与し、4時間後の BAL の各種サイトカイン濃度や ATP 濃度を平成24年度の結果を参考に測定する。続いて、敗血症性腹膜炎モデルに、過剰量の mBD-14 ペプチドを気管内投与することによる肺の変化を観察する。具体的には、盲腸結紮穿刺24時間後のマウスを気管切開したのち、mBD-14 合成ペプチド、もしくは ATP を気管内投与し、さらに4時間後と24時間後の肺組織、肺の炎症所見を、コントロールとしてPBSを投与したものと比較検討する。
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次年度の研究費の使用計画 |
引き続きマウスの飼育、維持に200,000円を要すると見込まれる。また、各種サイトカインなどの発現量の評価にRT-PCRを使用しているため、PCRに関連する費用として、100,000円を要すると見込まれる。そのほか、同じく各種サイトカインの蛋白量の評価に用いるEIAキットに300,000円を要すると見込まれる。また、組織学的な評価のために、標本作製を委託しており、300,000円を要すると見込まれる。その他、分子生物学的研究および動物実験に伴う物品の購入を要する。
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