研究課題/領域番号 |
24591154
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
山口 泰弘 東京大学, 医学部附属病院, 講師 (60376473)
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研究分担者 |
幸山 正 帝京大学, 医学部, 准教授 (00302703)
山本 寛 地方独立行政法人東京都健康長寿医療センター(東京都健康長寿医療センター研究所), 健康長寿医療センター研究所, 研究員 (10361487)
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キーワード | defensin / ATP / 急性肺損傷 / 敗血症 |
研究概要 |
Defensinは、特異的なシステイン配列を持つ抗菌ペプチドであり、自然免疫のエフェクター因子として機能している。我々は、エンドトキシンを気管内投与したARDSモデルを作製し、24時間後のBALFを解析したところ、mBD-14遺伝子欠損マウス では、野生型と比較し、BALF中の細胞数の増加は有意に抑制されていた(p<0.01)。我々は、高濃度のmBD-14が、哺乳類細胞の細胞膜に対しても傷害性をもつことから、細胞外に流出したATPが、mBD-14による炎症の惹起に関与しているのではないかと考えた。A549細胞に 0.005 mg/ml のhBD-3 ペプチドを投与し、直後に細胞外ATP濃度を測定すると、細胞外ATP濃度の上昇する傾向がみられた。また、ATP受容体阻害薬であるスラミンをマウス腹腔内投与後に、エンドトキシンを気管内投与してARDSモデルを作製すると、スラミンの非投与群と比較して、スラミン投与群で、BALF中の細胞数の増加は有意に抑制されていた(p<0.01)。しかし、同様に敗血症性腹膜炎モデルについて、スラミン投与群と非スラミン投与群の比較をおこなったが、致死率や肺病変について、現在、明らかな差がえられていない。そのほか、我々は、mBD-14の細胞傷害性が、癌の抑制にも働くと考え、癌抑制遺伝子であるSprx遺伝子の欠損マウスとの掛け合わせにより、mBD-14遺伝子とSprx遺伝子のダブルノックアウトマウスを作製し、癌の発生が増加するかを観察しているが、個体数が少ないこともあって、癌の早期の発生は、まだ確認できていない。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
計画にしたがって、mouse β-defensin-14(mBD-14)遺伝子欠損マウスを用いた急性肺損傷モデル、急性肺損傷モデルにおける P2X 受容体阻害薬の影響、急性肺損傷モデルでの defesin 発現量の評価について、計画とおりに評価することができた。さらに、実際、defensinにより細胞外のATP濃度の上昇することをin vitro で確認することができた。ただし、ATPと急性肺損傷モデルについては、同様の結果が他施設より報告されてきており、その部分については実験計画を変更した。また、平成25年度に予定していた盲腸結紮穿刺による敗血症性腹膜炎モデルについての評価も予定どおりに施行しえたが、現在のところ有意な結果はえられていない。しかし、defensinと炎症性肺疾患の間に、細胞外に流出したATPが関与することを示唆する知見はえられており、研究計画の最も重要な部分は順調にすすめられている。
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今後の研究の推進方策 |
細胞外ATPが急性肺損傷にかかわることについて、他施設より既に十分な報告がなされたため、我々は、defensin と炎症疾患との間に細胞外ATPの関与することを明らかにする研究の遂行を予定している。そのほか、エンドトキシンによりmBD-14 の発現が上昇しないため、非刺激下での気管支肺胞洗浄液内のサイトカインやATP濃度の評価を継続する計画である。また、当初の計画にはなかったが、非刺激下での正常細菌叢の違いが、エンドトキシン刺激に対するmBD-14遺伝子欠損マウスの反応の違いの原因になっている可能性も考え、16sRNAの分析から、常在菌の菌量の比較を始めることを計画している。敗血症性腹膜炎モデルについては、特にmBD14欠損マウスでの評価はいまだ不十分であり、検討を継続する計画である。
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次年度の研究費の使用計画 |
分担研究者の異動もあり、研究体制の準備に日数を要したため、一部の検討(敗血症性腹膜炎モデルについて、mBD14欠損マウスでの評価)を、次年度もひきつづき施行する方針に変更したため。 敗血症性腹膜炎モデルについて、mBD14欠損マウスでの評価を次年度も続けるために、次年度使用額は、そのために生じるマウスの飼育費と組織学的解析に要する予算の増加分にあてる。
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