研究課題/領域番号 |
24591162
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研究種目 |
基盤研究(C)
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研究機関 | 名古屋大学 |
研究代表者 |
橋本 直純 名古屋大学, 医学部附属病院, 助教 (30378020)
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研究分担者 |
長谷川 好規 名古屋大学, 医学(系)研究科(研究院), 教授 (20270986)
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研究期間 (年度) |
2012-04-01 – 2015-03-31
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キーワード | 肺線維症 / 微小環境 / 線維芽細胞 / 上皮間葉系移行 |
研究概要 |
特発性肺線維症は、fibroblastic fociの病理学的特徴を有する。線維化病変における線維芽細胞は多様な表現型を示すことが報告され、我々は、骨髄由来線維芽細胞や微小血管内皮細胞由来線維芽細胞を同定した。特に、epithelial-mesenchymal transition(EMT)は細胞外マトリックスの過剰産生をはじめとする線維化病変形成に極めて重要な病態であることが解明されている。これらの多様な線維芽細胞が形成する線維化病変は、活性化Ras誘導をもたらす増殖因子刺激(Receptor tyrosine kinase; RTK)、TGFβ過剰産生、そして低酸素状態をもたらしている。EMT誘導にはこれらの共刺激が重要であることも明らかになっているので、その包括的制御は間質性肺炎の治療戦略上きわめて重要なものとなる。しかしながら、これらを包括的に制御する治療戦略はRTK制御の試みにとどまっている。PTENはEMTを誘導するさまざまな刺激を包括的に制御し得る癌抑制遺伝子であるが、今回我々は、さまざまな線維化誘導刺激がPTEN産生制御およびPTEN C末端部位リン酸化によるPTEN活性低下を誘導することを明らかにした。さらに、PTEN C末端遺伝子変異を導入することによりTGFβ誘導EMTを制御して、それに伴う細胞遊走および細胞増殖を効率的に制御することを明らかにした。これらの知見は、PTEN C末端リン酸化部位の重要性と治療標的になり得ることを示唆する。今後外的遺伝子導入モデルを作成して効果を確認する予定である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
TGFβによる肺癌細胞株H358細胞の PTENリン酸化および表現型変化を検討した。薬物(Dox)調節型遺伝子導入システムを与したH358細胞にGFP、GFP-PTENWild、GFP-PTENmutを導入した後、TGFβ投与による表現型変化を検討し、また細胞遊走能と増殖能も合わせて評価した。TGFβ投与にてPTENリン酸化が確認された。TGFβ投与Dox非投与H358細胞ではEMTを介したE-Cadherinの減弱と Fibronectin の増強を認め、細胞遊走能の亢進を認めた。一方、TGFβ投与Dox投与H358細胞ではGFP-PTENmut導入細胞株でのみ細胞遊走が抑制され、またEMT表現型誘導も優位な抑制を認めた。H358細胞株においてPTENのC末端側リン酸化部位遺伝子変異はEMT誘導を抑制し、細胞遊走を顕著に阻害した。肺癌の浸潤転移過程に対するPTENのリン酸化部位の活性制御は新たな治療標的になりうると考えられた。
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今後の研究の推進方策 |
表現型を制御できるかを検討することが必要であると認識に至った。 1. 多様化する組織微小環境下刺激に対応するかどうかを評価するために、低酸素誘導EMTに対する制御効果を今回用いた細胞株で評価する。 2.さまざまな細胞種によってもPTEN4Aの効果が有効であるかを評価するために肺癌細胞株H1299細胞(PTEN-null)にPTEN野生型およびPTENリン酸化部位遺伝子変異型(PTEN4A)を強制発現させその制御効果を評価する。 3. 作成したPTEN4A導入アデノウイルスの外的投与によるEMT制御効果を評価する。合わせて動物モデルでのin vivo実験を行う。
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次年度の研究費の使用計画 |
1. PTEN4A導入アデノウイルス作成およびそれを用いた外的投与によるin vitro EMT制御効果の検証と肺線維症実験モデルを用いたin vivo実験による制御効果の検証 すでに恒常性発現ベクターでEMT制御効果を確認しているPTEN4Aをアデノウイルスに組み込みウイルス上清作成して、アデノウイルスによる毒性確認をしている。ウイルス上清を肺構成細胞に投与して標的たんぱくの発現も確認している。TGFβ刺激培養を行ない、EMT表現型獲得制御効果および細胞遊走亢進制御効果をin vitro実験で確認する。 また、BLM誘導肺線維症モデルにおいてウイルス上清の適正な投与量と投与時期の確認を行なった上で、線維化制御効果を検証する。また、ウイルス導入によって誘導される非特異的な炎症反応へのPTEN4Aによる制御効果も検証する。 2. PTEN断片化遺伝子作成によるPTEN4A遺伝子のEMT表現型獲得抑制機序の解明 PTENはC-terminal domainを含む5つのdomainから構成される。PTEN C末端リン酸化部位のリン酸化不応型置換遺伝子がもたらすEMT制御機構を解明するために、PTEN遺伝子を断片化してその遺伝子導入によるEMT制御機構を明らかにする。
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