研究課題/領域番号 |
24591165
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研究種目 |
基盤研究(C)
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研究機関 | 大阪大学 |
研究代表者 |
木島 貴志 大阪大学, 医学(系)研究科(研究院), 助教 (90372614)
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研究分担者 |
長友 泉 大阪大学, 医学(系)研究科(研究院), 助教 (10570583)
河面 聡 大阪大学, 医学(系)研究科(研究院), 招へい教員 (40625670)
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研究期間 (年度) |
2012-04-01 – 2015-03-31
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キーワード | 小細胞肺癌 / 多剤耐性 / 分子標的治療 / HER2 |
研究概要 |
平成24年度、HER2発現抗癌剤耐性小細胞肺癌(SCLC)株に対するHER2チロシンキナーゼ阻害剤ラパチニブによる抗腫瘍効果を検討した。SCLC細胞株におけるHER2の発現を解析した結果、欧米人由来株(0%)より日本人由来株(32%)でその発現頻度が有意に高いことを見出した。すなわち、SCLCではHER2の発現において人種間差が存在することが示唆された。次に、SCLCの治療第一選択薬であるシスプラチン, エトポシド, SN-38 (イリノテカンの代謝活性体) の各抗癌剤に対する耐性株において、親株に比べHER2発現が増強することを見出した。さらに、ラパチニブは、単独ではこれらの耐性株に細胞死を誘導できないが、一旦耐性化しHER2の発現が増強した後に抗癌剤感受性を回復させることを見出した。そのメカニズムとして、ラパチニブがそれぞれエトポシド耐性株とSN-38耐性株に新たに発現する薬剤排泄ポンプ (ATP-binding cassette transporter) ABCB1とABCG2の機能を阻害することにより抗癌剤感受性を回復させる事をin vitroにおいて確認した。特に、ラパチニブのABCB1阻害効果はHER2陽性SCLC細胞でより強く認められ、そのメカニズムとして、HER2の脱リン酸化とSrcの活性化、それに引き続いて起こるcaveolin-1のリン酸化を介することを見出した。さらに、in vivo治療実験において、エトポシド耐性株およびSN-38耐性株をヌードマウスの皮下に移植して形成した腫瘍は、ラパチニブ単剤あるいは抗癌剤単独では全く縮小しなかったが、両者を併用することで有意に縮小した。結果はSCLCに対するラパチニブの多剤耐性克服の可能性を示唆するものであり、これらの成果を英文雑誌に発表した(Mol Cancer Ther 2012;11(4):830-41)。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
HER2が難治性小細胞肺癌(SCLC)における抗癌剤耐性克服のための治療標的候補であることを見出し、そのメカニズムを解明することができた。さらに、マウスレベルでの治療実験で期待通りの治療効果を確認できた。また、その成果を英文雑誌に発表できた。
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今後の研究の推進方策 |
本研究期間内で明らかにできたことを、次の数年以内にはヒトへ臨床応用できるように、実際の患者検体を用いて、特異性・感受性の高い治療対象患者スクリーニング法を確立する。その1つとして、SCLCに使用可能なHER2免疫染色法は現在開発中である。 さらに、HER2阻害抗体のトラスツズマブの抗癌剤耐性SCLCに対する治療効果とそのメカニズムについても明らかにし、将来の臨床応用を目指す。 再発後の効果的な治療法が確立されていないSCLCの領域においてbreakthroughとなるような治療成績を出すため、関連施設とも協力して臨床試験を行っていく。
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次年度の研究費の使用計画 |
抗体購入や動物実験、および成果発表のための学会出張旅費で使用する予定である。
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