研究課題
平成25年度、HER2発現抗癌剤耐性小細胞肺癌(SCLC)株に対するヒト化抗HER2モノクロナール抗体トラスツズマブ(Tzmab)による抗腫瘍効果を検討した。SCLC患者におけるHER2陽性の頻度は診断時生検組織を用いた免疫染色による検討の結果約30%であった。第一選択薬であるシスプラチン, エトポシド, SN-38 (イリノテカンの代謝活性体) の各抗癌剤に対し耐性を獲得しHER2発現が増強したSCLC細胞株をTzmabにて治療しても、増殖抑制効果は得られなかった。しかし、NK細胞存在下では抗体依存性細胞傷害(ADCC)活性により、耐性SCLC細胞が死滅した。特に、TzmabによるADCC活性はSCLC細胞表面上にICAM-1が発現していると増強されることを見出した。さらに、in vivo治療実験において、各抗癌剤耐性株をヌードマウスの皮下に移植して形成した腫瘍のうち、シスプラチンおよびエトポシド耐性SCLC腫瘍はTzmab単剤治療にて有意にその増殖が抑制され、組織学的にもアポトーシスに陥った腫瘍細胞の増加とCD11b陽性免疫担当細胞の間質への浸潤の増加を伴っていた。一方、SN-38耐性腫瘍はTzmab治療耐性であった。われわれはSN-38耐性SCLC細胞では血管内皮増殖因子(VEGF)産生が著明に亢進していることを見出した。ヒト化抗VEGFモノクロナール抗体ベバシズマブ(BEV)治療により、SN-38耐性腫瘍の増殖が有意に抑制された。以上より、SN-38耐性SCLCのTzmab耐性機序としてVEGF産生亢進が原因であり、BEVがそれを克服できることがを明らかになった。われわれは、以上の研究成果を英文雑誌に発表した(Sci Rep, 2013; 3:2669)。
2: おおむね順調に進展している
HER2が難治性小細胞肺癌(SCLC)における抗癌剤耐性克服のための治療標的候補であることを見出し、トラスツズマブ(Tzmab)による抗腫瘍効果発揮のメカニズムを解明することができた。さらに、マウスレベルでの治療実験で期待通りの治療効果を確認できた。さらに、Tzmab耐性の原因として腫瘍細胞によるVEGF産生の関与と、ベバシズマブによるTzmab耐性克服の可能性を明らかにすることができた。また、その成果を英文雑誌に発表できた。
現在、書面にて同意の得られたSCLC患者を対象に、免疫染色によるHER2陽性SCLC患者の集積を行っており(大阪大学医学部附属病院臨床研究倫理審査委員会承認番号09312)、今後、1次,2次治療不応となった患者に対して先進医療として承認された患者にトラスツズマブ治療を行う予定である。数例実施して、安全性に問題がなければ、再発後の効果的な治療法が確立されていないSCLCの領域においてbreakthroughとなるような治療成績を出すため、関連施設とも協力して臨床試験を行っていく。
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Scientific Reports
巻: 3 ページ: 2669
10.1038/srep02669