研究課題
基盤研究(C)
本研究の目的は肺がん難治化の大きな要因となっている遠隔転移、特に脳転移に対する有効な新規治療法の開発である。具体的には、肺がん脳転移モデルを用いて、1) 肺がん脳転移形成に関与する因子を網羅的に検索・同定し、それらの因子を標的とした生物学的制御法を構築すること、2) また肺がんの脳転移形成過程におけるがん細胞と宿主側因子の間の相互的な応答性を系統的に解明し、肺がん脳転移の詳細な分子機構を明らかにする。肺がんの脳転移を規定する諸因子をがん細胞および宿主側因子の両面から系統的に明らかにし、それらの因子を分子標的とした新規治療法の開発およびその強化法の確立を目指す。今年度の研究成果として、まず肺がん脳転移形成における種々の血管新生因子の関与を検討した。肺がん細胞による実験的脳転移モデルを用いて、脳転移巣における種々の血管新生因子の発現を免疫染色にて評価した。肺がんによる実験的脳転移巣においてはVEGFをはじめとした種々の血管新生因子が高発現しており、肺がん脳転移形成における血管新生の重要性が確認された。また、脳転移巣周囲にはastrocyteが集簇しており、脳転移形成との関連が示唆された。続いて、血管新生阻害による肺がん脳転移抑制効果を新規血管新生阻害剤であるE7080を用いて検討した。E7080はVEGFR, PDGFR, FGFRなど複数の血管新生因子を阻害する低分子化合物である。E7080単剤の連日経口投与により肺がん脳転移の抑制効果および生存期間延長効果は認められなかった。現在、E7080の血液脳関門透過性の評価や、他の血管新生阻害剤の治療効果、ならびに他の抗がん剤との併用効果などについて検討中である。
3: やや遅れている
新規血管新生阻害剤(E7080)による脳転移抑制効果を評価する実験により、血管新生阻害剤単剤による脳転移の抑制効果を認めなかったことから、現在その原因を検索中であり、E7080の血液脳関門透過性の評価や、他の血管新生阻害剤の治療効果などを追加検討中である。当初は上記の検討を実施する予定はなかったため、やや研究の推進状況が遅れている。
以上の新たな知見を踏まえて、1) 肺がん脳転移巣においてastrocyteなどの脳内微小環境構成細胞ががん細胞におよぼす影響の検討、2) 高脳転移肺がん細胞株の樹立およびそれを用いた肺がん脳転移に関係する分子の網羅的検索、3) 化学療法および種々の抗転移療法併用による集学的治療法の確立、4) 肺がん脳転移形成におよぼすがん幹細胞の関与の検討、5) 肺がん脳転移形成におよぼす腫瘍関連線維芽細胞などの腫瘍間質細胞の影響の検討、などの研究を遂行する予定である。
次年度の研究費は、上記の実験を遂行するための消耗品(実験用動物、抗体、培養液・培養器具、試薬)費用や研究成果発表のための旅費、および論文投稿経費として使用する予定である。
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Clin Exp Metastasis
巻: 30 ページ: 333-344
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