研究課題/領域番号 |
24591171
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研究機関 | 宮崎大学 |
研究代表者 |
柳 重久 宮崎大学, 医学部, 助教 (60404422)
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研究分担者 |
三好 かほり 宮崎大学, 医学部, 医員 (50573375)
坪内 拡伸 宮崎大学, 医学部, 医員 (60573988)
松元 信弘 宮崎大学, 医学部, 助教 (70418838)
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研究期間 (年度) |
2012-04-01 – 2014-03-31
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キーワード | 急性肺損傷 / Pten |
研究概要 |
急性肺損傷(acute lung injury;ALI)は、急速に重篤な呼吸不全に陥る難治性疾患である。ALIの特徴は、肺胞上皮細胞(alveolar epithelial cells; AECs)損傷と、それに引き続く非心原性肺水腫である。最終的に肺線維化に陥り、非可逆性の肺構築荒廃に至る。ALIの発症機序は不明で、既存の薬物療法の有効性は実証されていない一方、死亡率40%以上と高い致死率を呈することから、同病態の発症機序の解明と新規治療法の開発は急務の医療課題である。本研究は、ALIにおける上皮Ptenの役割を解明し、AECs分化制御・AECsバリアー保持・AECsバリアー再構築を焦点とするALIに対する有効な治療戦略を構築することを目的とする。Early phase EMTとALI発症・進展の関連を検証するため、AECs特異的Pten欠損マウス(KOマウス)を用い、肺損傷後タイトジャンクション構成蛋白発現動態、肺損傷後細胞外マトリックスリモデリングの変化、肺損傷後EMT関連分子動態の解析を行った。Bleomycin気管内投与モデルにおいて、KOマウスは著明な肺水腫と肺線維化により高い致死率を呈した。TUNEL染色とcaspase 3/7染色の結果、AECsにおけるPten欠損はアポトーシス細胞数への影響はなかった。また、ENaCとNa+K+ATPaseの発現もKOマウスと野生型マウスとでは差がなかった。一方、肺損傷後のKOマウスはAECs間タイトジャンクション破綻と基底膜破綻を呈した。KOマウスでは肺組織および単離AECsでのpAkt, pS6K, Snail, MMPsの発現亢進とclaudin-4, E-cadherin発現低下がみられた。以上の結果から、上皮PtenはAECs統合性制御を介し、ALIと肺線維症の発症制御に重要であることが示唆された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
Early phase EMTとALI発症・進展の関連を検証するため、AECs特異的Pten欠損マウス(KOマウス)を用い、肺損傷後タイトジャンクション構成蛋白発現動態、肺損傷後細胞外マトリックスリモデリングの変化、肺損傷後EMT関連分子動態の解析を行った。Bleomycin気管内投与モデルにおいて、KOマウスは著明な肺水腫と肺線維化により高い致死率を呈した。TUNEL染色とcaspase 3/7染色の結果、AECsにおけるPten欠損はアポトーシス細胞数への影響はなかった。また、ENaCとNa+K+ATPaseの発現もKOマウスと野生型マウスとでは差がなかった。一方、肺損傷後のKOマウスはAECs間タイトジャンクション破綻と基底膜破綻を呈した。KOマウスでは肺組織および単離AECsでのpAkt, pS6K, Snail, MMPsの発現亢進とclaudin-4, E-cadherin発現低下がみられた。以上の結果から、上皮PtenはAECs統合性制御を介し、ALIと肺線維症の発症制御に重要であることが示唆された。以上、本年度は予定通りEarly phase EMTとALI発症・進展の関連について解析を行った。その成果を国内学術講演会で発表し、またその内容が英文雑誌(米国胸部疾患学会誌; American Journal of Respiratory and Critical Care Medicine)に掲載された。
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今後の研究の推進方策 |
本年度までに、AECs特異的Pten欠損マウス(KOマウス)を用い、肺損傷後タイトジャンクション構成蛋白発現動態、肺損傷後細胞外マトリックスリモデリングの変化、肺損傷後EMT関連分子動態の解析を行った。Bleomycin気管内投与モデルにおいて、KOマウスは著明な肺水腫と肺線維化により高い致死率を呈すること、肺損傷後のKOマウスはAECs間タイトジャンクション破綻と基底膜破綻を呈すること、肺組織および単離AECsでのpAkt, pS6K, Snail, MMPsの発現亢進とclaudin-4, E-cadherin発現低下を呈することを見出した。以上の結果から、上皮PtenはAECs統合性制御を介し、ALIと肺線維症の発症制御に重要であることが示唆された。以上、本年度は予定通りEarly phase EMTとALI発症・進展の関連について解析を行った。これまでの解析結果をもとに、次年度以降、ALIにおける上皮Ptenの役割を解明し、AEC分化制御・AECバリアー保持・AECバリアー再構築を焦点とするALIに対する有効な治療戦略を構築することを目的とする。EMT関連分子や細胞外マトリックス成分が与えるAECバリアー強固性への影響を解析する。Akt阻害剤投与マウスを用い、ALI新規治療の創出を目指す。ALI症例検体中LOX測定によるALI予後予測バイオマーカーの探索を行う。以上の方策により、early phase EMTを焦点とした、多面的かつ網羅的なALIの病態解明と医療応用への方策の創出に挑む。
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次年度の研究費の使用計画 |
(1)Akt阻害剤によるALIモデルに対するレスキュー効果の検討 ブレオマイシン投与1日後のKOマウスと野生型マウスにAkt-inhibitor II (20μg/匹)を1日1回連日腹腔内投与する。ALIに対するレスキュー効果を、生存曲線、気管支肺胞洗浄液中蛋白濃度、および組織学的変化にて評価する。TJs構成蛋白の発現と基底膜破綻の軽減について、それぞれclaudin-3, claudin-4, occuludin, ZO-1およびlamininの蛍光免疫染色とウエスタンブロッティングにて解析する。 (2)Pten/Snail/HIF遺伝子導入AECでの修復機構と細胞シートバリア強固性の検討 野生型Pten/dominant negative型Pten/Snail/HIF遺伝子導入BEAS-2B細胞層をスクラッチ処理し、細胞層欠損面積の経時的変化を解析する。修復過程のAECのlamellipodia, pseudopodia形成能の差異について電子顕微鏡にて検討する。Pten, Snail, HIFが与えるAECシートバリア強固性について、TGF-β処理による経上皮電気抵抗およびキャパシタンスの変化を測定する。細胞間隙経路シーリング機能について、上記遺伝子導入AEC細胞を用いTGFβ処理前後のmedium中dextran-FITC透過性を測定する。 (3)ALI症例気管支肺胞洗浄液中LOX濃度と重症度との関連性 Lysyl oxidase(LOX)はHIF制御下に発現し、細胞外マトリックスリモデリングを介してEMTを促進する。ALI患者を対象に、気管支肺胞洗浄液中LOX濃度をELISAにて測定し、60日死亡率、28日人工呼吸器離脱率、PaO2/FiO2比、多臓器不全合併率、血清KL-6値との関連性を解析する。
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