研究課題
本年度は緑膿菌感染モデルマウスを作成し、ヒトb-defensin3 (hBD3) を単独投与した群、hBD3とSP-Aペプチドを混合投与した群で治療効果、および副作用を評価した。マウスに緑膿菌を経鼻感染させた3時間後にhBD3を経気道的に投与した。投与12時間後に肺の組織破砕液を作製し、肺内に残存している菌体数を計測したところ、hBD3投与群では生食投与群と比較して有意に残存菌体数が少なかった。また、hBD3にSP-Aペプチドを混合して投与した群でも同等の菌体数減少がみられた。これらの結果と前年度までの研究成果から、SP-Aペプチドは生体に投与した場合でも、hBD3投与時の過剰な炎症は抑制するものの、hBD3の抗菌活性は抑制しないことが明らかとなった。そこで、緑膿菌を感染させたマウスにhBD3を複数回投与した場合の生存率を解析し、治療効果を評価した。その結果、感染後3日で非治療群のマウスの生存率が0%となったのに対し、hBD3とSP-Aペプチドを混合して3回投与した群では、生存率が0%となるまでの時間が感染後5日まで延びた。興味深いことに、hBD3を単独で3回投与した群では生存率が0%になるまでの時間が非治療群よりも短くなった。今後の詳細な解析が必要であるが、hBD3を単独で投与した場合には、hBD3による組織傷害により感染が増悪している可能性がある。SP-Aペプチドを混合投与した場合には、hBD3の抗菌活性を維持したまま組織傷害を抑制することで、感染増悪を引き起こすことなく治療効果が得られたのではないかと考えられる。本研究の成果は、SP-AペプチドとhBD3を組み合わせることで、新たな発想に基づく感染症治療薬として応用できる可能性を示しており、研究目的を充分に達成できたと考えられる。
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